エピソード

【22話】スタッフが飛んだ!!その時私にできることは泣き寝入りだけでした。

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880万円...。
この数字からこの物語は始まります。
第1話はこちらからご覧ください。

「飛ぶ」ということ

私が風俗業界、夜の世界で働いている頃、「飛ぶ」と言う言葉をよく聞きました。
もちろんその業界に入ってから知った言葉です。
そして数年の間に何十人のキャスト、男性スタッフが飛びました。
家族がある人、一人暮らしをしてる人、親元で暮らしてる人、小さな子供が居てるシングルマザー、DVの夫から逃げてシェルターのような場所で暮らしている人。
色んな人が私の働いていた店で同僚となり、ある日突然居なくなりました。
家族を捨てて飛ぶという事は物凄く勇気のいる事だったでしょう。
それよりも足が付くのを恐れ飛んだ先で携帯の新しい契約や、病気になった場合の健康保険が使えない事、引っ越した先での住民登録が出来ない事、身分を証明する物が無いの困ると思います。
どうしても次の引っ越し先となる新しい場所でも、風俗業界や水商売の寮になる事が多い様でした。
それは女性も男性も同じ。
保証人なしでも住居を用意してもらえますし、病気になってしまった時の受診も保険証が無いと実費での10割負担ですが、病院代も勤務先のお店がバンスで何とかしてくれたりします。
勿論私の働いていた店が飛んだ人の逃げ場所になる事もあり、関東地方や北海道、九州や沖縄といった、色んな所の出身の方々がいらっしゃいました。
見つかるのを恐れて出身を隠していても、言葉の訛りで察知することができました。
その生活は本当に不便そうですし、かくまって貰うことはいきなり借りを作ってしまうという事で、そんな方達は肩身の狭い思いをしているため、また何処かに飛んで行ってしまいました。

給料日の不穏な空気

そしてある日のお給料日、その日は愛知県から来たこの店で働き始めて2年目の40代後半の男性スタッフがお給料をわたしてくれる予定でした。
その月のお給料は長男の入学式も控えている事もあり、随分頑張った成績が反映されるはずでした。
閉店後待っていてもその男性スタッフは中々現れず、他のキャストの子と「遅いな~」と・・。
しばらくしてから違うスタッフが来て、
「ごめん。ちょっと手違いがあって、給料は明日になります。」
そういわれた時嫌な予感がしました。
今まで搾取され明細に色んな項目で、現金を引かれてる事はありましたが、給料袋丸まる当日に貰えない事なんてなかったからです。
「大丈夫なんかな~、めっちゃ嫌やねんけど。」
待っていたキャストの女の子たちは口々に色んな事を言い始めます。
しかしスタッフが明日と言うなら今日貰える事は無いので、帰宅する事にしました。
主人に言おう迷ったりもしましたが、心配をかけてまた円形脱毛症が違うとこに出来たり、白髪が増えたりしたら私も責任を感じてしまうので、言う事が出来ません。
明日になったら、ちゃんとお給料が出るってスタッフも言っていたしな…そう思うようにしました。

スタッフが給料日に飛んだ

翌日出勤したら通常の営業が始まりました。
誰もお給料の話をしない不自然な感じ。
そこに、1人の男性スタッフが私の待機している所へ来ました。
「ごめんな。昨日は。実はあいつ皆の給料持って飛びよった。」
やはり、あの愛知県出身の男性スタッフの姿が見えなかったので、不安に思ったのですが、的中してしまいました。
「女の子の給料だけちゃうねん。俺ら男の給料も、ボーイのバイトをしている学生の給料もな、皆持って行きよった。あいつ探してるから、見つかるまでまってな。見つけたら返させるからな。」
「え~。そうなんですか…。」
それしか言えませんでした。
私の事情もこのお店の人達は知らないので、困りますと言った所でお給料は出ない訳ですし。
例え事情がありますと言っても、私のお給料だけ出るなんて事はありません。
他のキャストにも、そうやって言って回っていました。
離れた席から女の子の文句が聞こえてきました。
私の働いていたお店のお給料日は月初だったので、救いは全ての支払は月末という事でした。
債務整理の手数料、税金、滞納してはいけない公共料金。
通常なら月初に貰ったお給料で支払っていましたが、その見込みが無くなってしまったので、払える方法としては出勤した時に貰えるその日のバック分でした。
そのお金を当てるしかないという事で指名料、飲んだお酒、延長。
取り分となる数千円を貯めて行くため、馬車馬のようにより一層頑張っていかないと駄目な状況になってしまいました。
入学式が控えていて、私は出席する為の私のスーツも息子のスーツもお給料で買おうと思っていたので、その費用もバック分でクリアしないといけなくなりました。

泣き寝入りしかできない現実

悔しいですが泣き寝入りしかありません。
お給料が出ない時は通常なら労働基準監督署に言えます。
しかし風俗店の労働者の話は聞いて貰えないのが普通です。
全国にそんな思いで泣き寝入りしている女の子たちは溢れかえっているのだと思います。
一般の企業で売り上げ不振でお給料が貰えなかった人たちも、弁護士を入れた長期の話し合いで数年かけてやっと貰えるはずのお給料が貰えるというくらいです。
今の時代はそんな案件が山ほど在りますので、風俗店で務める従業員の話は中々相手にして貰えません。
警察にだってお店側も被害者になっていますので、まずお店が被害届を出さなくてはいけません。
しかし前にもお話させて頂いた様に、風俗店の場合は警察からして突っ込みどころ満載なのでミイラ取りがミイラになってしまうので、被害金額が相当でも泣き寝入りします。
この風俗店が例えば大きなグループ会社であったり、会社として規律を守った営業をしているなら、このような場合も警察に届け出を出したり、会社のお金で従業員に支払う事はあるかもしれないでしょう。
1店舗や2店舗くらいを経営しているような小さなお店は、従業員に泣いてもらうというスタンスを貫きます。
飛んでしまった愛知県の男性スタッフはもともと飛ん来たのを匿って寮に住まわせ、働かせていた様なのですが、世話をしてもあっさり裏切られてしまうのが現実。
お店側も悔しいのでしょうが、大金をスタッフに預ける事にも問題があるのです。
働くにあたって住民票の提出、保証人そんなものを全部省いていていたので、お店としても素性の分からない人を雇うリスクは覚悟しているのかもしれません。
今時はアルバイトでも中小企業でも住民票の提出や保証人を付けてくださいと言われます。
大企業なら尚更。
しかしこのような風俗店がなければ、飛んだ男性スタッフの様な人の受け皿はないので、その様な人が生きる為にも必要な受け皿なのかもしれません。
なので自然な流れなのかもしれないなと思ました。

恩を仇で返す

後に聞いた話だと、彼は奥さんと子供を連れて京都に逃げて来たという話でした。
そして店側にも400万の借金をしていたらしく、その借金も踏み倒しスタッフのお給料総額を持って飛んだそうです。
女の子約50人、男性スタッフのお給料6人分を持ち逃げしてしまいました。
奥さんと子供はまだ寮に置きざりにされていた様ですが、奥さんが借金の保証人になっていたら奥さんに何とかさせようとしたのかもしれません。
知らない間に奥さんと子供も家財道具ごと居なくなった、と聞きました。
本人は見つかってないので、100%給料を持ち逃げしたとは言えませんが、ほぼ間違いはないだろうと思います。
奥さんと子供も一緒に助けてもらっていたのに恩を仇で返すような事、本当に人としては考えられない様な事なんですが、逃げたスタッフの心がせめて傷んでいたらいいのになと、そう思うしか私も心の持って行き場所がないような出来事でした。

若くして二児の母になった私は風俗の世界に飛び込む決断をしました。夜の世界の「光」と「影」を自身で経験しました。家族を守るため、風俗とともにがむしゃらに駆け抜けた6年間の濃密なコラムが皆様の元気に変わればと思い執筆活動を続けて行きますのでよろしくお願いします♪ Rie♡"

 
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