エピソード

【32話】大事なお客さん。だけどかける言葉が見つからない

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880万円...。
この数字からこの物語は始まります。
第1話はこちらからご覧ください。

夜の世界のお客さん

一般の社会経験がある男性スタッフのおかげで、店内を荒らす人たちは振るいに掛けられ、ある程度はスタッフが入れ替わりました。
私にとって嫌な風習や搾取されて当然、いかなる理由があっても欠勤や遅刻のペナルティーとしての罰金や、よくわからない迷惑料というのも無くなったのではないかと思います。
それまでは当日、前日以外の数週間前のお休みの申請も、1度出してしまったシフトであれば罰金は支払わなければいけなかったですし、インフルエンザに感染しても休めないうえ、迷惑料も取られていたのですが、
「インフルエンザのキャストの子が出勤したら、お客様に迷惑がかかる。」責任者の男性スタッフがそう言ってくれたので、当たり前の一般常識が店内で通用するようになりました。
キャストの女の子達も搾取されないように当たり障りなく、ある程度の成績を維持するという考えから、お給料を沢山貰うために成績を稼ぐという事が出来るようになってきました。
夜の世界、風俗業界は世の中の縮図とも言えるほどキャストやスタッフ、お客様を見ると世間で言われている問題と言うのが、小さな店で全部見れるのではないかと思える位、色んな人達が集まってきます。
キャストで言えば以前お話しした生活保護の不正問題、不認可の24時間体制の保育園の問題、夫からのDVやそのDVからの保護施設であるシェルターでのプライバシーの問題、離婚をしてからのシングルマザー、子供を児童相談所の施設に置いてきたお母さん。
また生活能力が無いとされ児童相談所に子供を保護されてしまったお母さん、日中の仕事の賃金の安さから働きにくるOLさん、大学の奨学金の返済で生活が出来なくなった女子大生、熟年離婚で生活の為にこの風俗業界を選んだ人、親の介護で介護離職をして生活出来なくなり、この仕事を選んだ人、私の様に借金問題の人も居た事と思います。
お客様で言えば、成功例から失敗例まで、また発展途上にいる人たちもいます。
高度経済の頃、一心不乱に仕事をし会社の基盤をつくり、優雅に遊ぶことが出来ている団塊の世代の初老の社長さんがいたり、同じ団塊の世代でも少し前に流行った熟年離婚で奥さんに出て行かれ1人になり、夜な夜な遊びにくる男性がいたり・・・。
学歴社会と言われ始めた頃に幼少期を過ごし、こつこつ勉強をし大手の企業でそこそこのポジションに居て勝ち組と言われる部類の人が居たり、少し前のITバブルで勝ち残った人、高齢化社会で老人ホームの経営が成功した人、リーマンショックでリストラされた人、不正規雇用の人、結婚しない独身の中年男性、景気の悪さから中年になっても親と暮らし自立できない人。
介護の為に婚期を逃し、先の見えない介護生活をしている還暦の男性、ありとあらゆる社会の問題がそのセクキャバで見ることが出来ました。

伸し掛かる重圧

店の中で私は年齢が高い方でもなく若い方でもなく、年齢的には本当に真ん中で平均だったので、店側も私が使いやすかったのか色んなお客様に接客をし会話をしてきました。
そして心に隙間がある人程、接客していても会話していても私に圧し掛かるものがあり、依存されているなと感じることが多かったのです。
それが仕事と言えばそうなのですが、それは私にとっては大きなプレッシャーをでもありました。
しかし心に隙間がある人程お店ではお金を落としてくれていたので、仕事として割り切って乗り切っていました。
セクキャバという、中間の部分の仕事だからこそ会話も長くなりますし、お客様は別にすっきりしたい訳ではなく、人肌が恋しいとか心に寄り添って欲しいとか、そんなあって無い様な理由で来店して下さったのだろうと思います。
お客様の目的が業務上出来る事はこれといって無いのがセクキャバの特徴で、余計に話す時間が長くなってしまいました。
半裸で話を聞くとはいえ人生相談に近いものもあり、30分5000円の何処かの弁護士さんより高額なお金を頂くのですから、それなりに真剣に聞いてあげないと、と言う気持ちでした。
お金を使って、しかも割と高額なお金を払ってもらって遊びに来てくれるので、キャストとしてしっかり応えようとすればするほど、話は段々重くなっていきます。
そんなお客様が1人や2人なら良いのですが、当時40・50人とそんなお客様を持っていたので、お客様のバリエーションが豊かな分、心にかかる重圧は日に日にきつくなっていくばかり。
例えば営業のメールをする為アドレス交換したお客様からある日の朝、
「死にたい。今日は会社休んだ。」
そうメールが届きます。
死ぬ訳ないと思っても、そんなもの何の確証もありません。
当たり障りのない返事をし、頑張ってねと、これ以上メールの内容が重くならない様に返事をします。
そして、死んでないかな?としばらく時間が経ってからドキドキしたり・・・。
死ぬ直前にメールした相手がもし私だったら、絶対に嫌だからです。
違うお客様は、
「今日親が骨折して入院しました。どうしよう。」
そうメールが送られてきます。
店のキャストとして、私がお客様にしてあげれる事は何もないのです。
お客様もそれは理解しているはずが、そんなネガティブな内容のメールが色んなお客様から送られてきました。
ただ頑張ってねとか、疲れが出ない様にねとか、そんな言葉が欲しいのだな、というのは私も分かるし対応できます。
しかし死にたい気持ちも、親の骨折でどうしようという気持ちも、風俗業界のキャストである私以外に言える人が居ないのかと、お客様とはいえ情けない気持ちになってしまいます。
出来るだけ優しく接する事を心掛けてはいましたが、私にも生活があり主婦であり母親なので、真剣に話を聞くのに限界がありました。
それでも私は私の生活の為に。
お客様に対しては出来る限り、話してくれる身の上話を聞いていました。

心がついていかない

月に1回、岡山県から欠かすことなく遊びに来てくれていた57歳のお客様がいました。
月に1回私に会いに来るのが唯一の楽しみだと言ってくれて、来るときは岡山県のお土産をわんさか私に持ってきてくれ、毎月店では15万は使ってくれます。
私の顧客の1人なのですが、とても生き辛そうなお客様の1人でした。
岡山市内で自分の母親とマンションで2人暮らし。
その人に結婚歴は無い様子でした。
その人の話では30代の頃結婚したい人がいたらしいのですが、その頃父親が他界し母親も体調を崩してしまった。
それで結婚を逃したまま母親の面倒をみながら自分も仕事して暮らしている。
そんな話をしていました。
その人から人生の後悔が滲み出ていて、慰めようがありません。
30代の頃結婚しておけば、今の自分にも職場の同僚と同じ様に子供がいたりして、家庭があるかもしれない、そう思っているのが分かりました。
しかし下手に私が意見を言えば、その人の人生を否定することになってしまいそうで、また怒らせては元も子もないので、上手に話を聞く必要がありました。
「お母さんの面倒を見て凄いです。偉いです。」
それくらいしかその人を慰める言葉はありませんでした。
私が全く違う事を思っていても、それを凄いですと言わなければならないのが、本当に私はしんどかったのです。
しかしセクキャバという場所には反面教師となるものがたくさんあり、今となっては随分役に立つが多くあります。
自分の心の声と、現実に自分が話す言葉が真逆の世界で毎日が過ぎていく空虚な感覚は、今も忘れられない感覚です。
男性スタッフが入れ替わった事で、搾取されない働き方をしなくても良くなりましたが、その頃から私は店で以前よりお客様の席に付けて貰える事も増えました。
その分お給料も評価の分上がりましたが、体力より気持ちが付いて行くだけでギリギリに・・・。

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若くして二児の母になった私は風俗の世界に飛び込む決断をしました。夜の世界の「光」と「影」を自身で経験しました。家族を守るため、風俗とともにがむしゃらに駆け抜けた6年間の濃密なコラムが皆様の元気に変わればと思い執筆活動を続けて行きますのでよろしくお願いします♪ Rie♡"

 
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