エピソード

【みなの場合③】仕事だと割り切っているから

風俗では働く女の子の物語
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感する?
3人目の物語……。
1人目はこちらからご覧ください。

みなの場合

「こんにちわ」
薄汚いホテル。
ここのホテルは嫌いだ。古いうえに暖房の効きもとても甘い。
あげく、無駄に広いのに殺風景な部屋がやけに即物的でいまいましい。
隠れ家的なホテル。
値段も安いけれど、安くて汚いホテルに呼ばれると風俗嬢のあたしを安く見ているようで本当に嫌気がさす。
ドアノブを回し部屋に入ると、すぐ目の前のソファーに巨漢なお客さんがお相撲さんのようにどっしりと座っていた。
見たせつな、「キャンセルで」と言いそうになり、開けた扉を一回締めてしまった。
(あー。ほんとうにいや〜。帰りたい〜)
即座に彼氏の顔が浮かぶ。
彼にはあたしが風俗のバイトをしていることはもちろん言ってはいない。
ファミレスで働いていることになっている。同じサービス業。
けれどファミレスは洋服は脱がないし、1時間給は845円。
この仕事は1時間でその10倍だ。
「どうぞー」
太い声が奥の方から耳の奥に入ってくる。ふーっと息を吐きあたしは改めてドアノブを捻った。

お客さんの側にいくと、何もしていないのに、ただ座っているだけなのに呼吸がおそろしく荒く乱れていた。
醜く太っている。
お客さんはあたしの方を一度も見ないで「90分で」と、蚊の泣くような声音で囁いた。
は?あたしはあまりにも小さな声音をうまく拾うことができなくって、え?なんて?
もう一度問いただした。
お客さんはゆっくりと顔をもたげあたしを一瞥し、口先だけ動かし、「90分」と今度は普通の声をだし言った。
ぎょっとした。
メガネの奥の細い目は蛇蝎のようで肌は不健康に浅黒く、もっさりした白髪混じりの髪の毛は脂まみれでべったりとしていた。
思わず咳払いをしてしまった。
じりじりと近ずくと鼻がバカになるような体臭に思わず吐き気がこみ上げた。
今からこのお客さんの性を吐き出さなければならない。
何かの罰ゲームかと思った。
風貌からして嫌悪感いっぱいだ。
もはや自分の意志を殺すしかない。
あたしだけれど、あたしではないあたしを呼んでこなくてはこの男の性を受け入れることはできない。
あたしはそうっと目を綴じた。そして、「シャワーに」とシャワーの方を指さした。
「ああ」
お客さんは重たい図体をおこし、立ち上がる。何をするにも呼吸が荒い。
洋服を脱いでシャワーを浴びる。
狭い浴室は巨体のお客さんとわりと体格の良いあたしでとても狭っ苦しい。
お客さんの下半身を洗うためにしゃがむ。
そして匂いのやたらきついソープを泡だで欲望器官に手を触れた。
身体が大きいとあそこは小さいことが多い。やはりこのお客さんもそうだった。
「あ、これ。やけどですか?」
股のあたりがあざのように広範囲で赤みを帯びていた。まるでやけどの跡みたいに。
「あ、なんか、掻いてたらこうなったんだよ」
しかし棒読みでお客さんは応えた。
きっと太っているから汗をかきすぎてあせもになったんだ。即座にわかった。
48歳だというお客さんは「バツイチ」と言った。
けれど、これも嘘だと思った。
こんな風貌で寡黙な性格。顔からは何を考えているのか全く読めない男。
バツイチと言えば、ああ、この人1回結婚したんだ。そういう安心感がある。
時にいる。風俗嬢を安堵させる、ものいいのお客さん。
このお客さんもそうにちがいないと確信した。
1年でも結婚をし別れてもバツイチになるし。

ベッドに行き、小さなしめじを即座に咥えた。あまり膨張はしない。
お腹がじゃまをお腹を押さえフェラをした。
あ、お客さんは震える声で小さな吐息を零す。
そして何も言わないままあたしの口腔内に少しだけ白濁した膠を吐き出した。
むせかえるような匂いに胃液がこみ上げる。
急いで洗面台に行き急いでイソジンの入ったコップでうがいをした。
それでも喉にこびりつく膠を何度も嚥下した。
涙が出そうになるも我慢しあたしはまたベッドに横になった。
薄明かりの中、お客さんの横顔を見る。
横のライトが逆光で見事なでかい輪郭に目をみはる。
そのお腹の中には一体なにが詰まっているの。なんでそんなにでかいの。
自分を鏡で見てみなよ。言いたいことが渦巻くもあたしからはなにも言えやしない。
風俗嬢だから。利害性のない風俗嬢。
タイマー早く鳴らないかな。あたしは天井を見上げる。
横からは相変わらずの乱れた呼吸音がしている。
それでもね、満足気なお客さんの横顔を見ると嬉しくなるのはきっと仕事だって割り切っているから。
うん。そう、そうなんだ。
to be continued…

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風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。

 
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