エピソード

【 まきの場合 33】うそつき女

風俗で働く女の子の物語。
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感?
今回は33人目のあたし。まき。
1人目はこちらからご覧ください。

まきの場合

なしくずし。
最近のあたしはまさにその単語の通り【なしくずし】でもって保たれている。
「まきちゃんさ、そろそろいいだろ?LINE教えてよ。いやなら普通のメアドでもいいよ」
常連さんの山田(きっと偽名)がとにかくそろそろ鬱陶しいので、
「じゃあ、フルフルしよ!」
「え? いいの?」
LINEの画面を開き一緒にスマホを振る。
【ブブ】
スマホが手の中で震え、あっという間に【客】から【友達】になった。
山田は、やったー。嬉しいー。と本当に嬉しそうな声を出し、あたしの手を取り握った。
教えない、教えるの押し問答にほとんど疲弊していた。いろいろなことに嘘をつくことにも。
嘘をつかなと風俗嬢などやれないとゆうことを。
誰にも言えない秘密の仕事だとゆうことも。
だから、オプション料金ももらわずに口内発射や顔射なども受け入れている。なしくずし。
最近のあたしはどうかしている。

山田の部屋を出たせつな、すかさずにLINEが届く。
【まきちゃん。今日はありがとう。てゆうか、このアイコンの名前が本名なの?かわいい名前だね】
あ、しまった。そう思ったのも後の祭り。時すでに遅し。
あたしは、既読をつけないまま、すぐに山田をブロックした。
もしまた呼ばれることがあったとき、きっと『LINE無視してる?』と、間違いなく聞かれるけれど、『え?嘘だぁ?最近なんだかスマホの調子が悪いんだ。』などとはぐらかせばいい。
既読無視であたしが避けているとゆうことを認識して欲しいし、あくまであなたはお客さんだとゆうことをわかって欲しい。
お客さんは(特に常連さん)は何度か顔を合わせ、擬似恋愛めいたことをしていると、あれ?こいつ俺に気があるのか?などと勘違いをする。
お金を介しているけれど、お金よりも面倒くさい嘘くさい恋愛感情のせいでお客さんは夢中になる。
風俗の仕事は女優だ。
女優にならなと出来ない仕事。夢を愛を身体を売っているのだから。もうひとつ。
【嘘】も売っている。
「まきちゃんさ、風俗嬢に向いてない気がするけれど……」
なおみさんは30代半ばのお姉さんで、あたしが待機部屋で唯一話をする相手だ。
「だって、嘘つくことに疲れたとかね、気をつかいたくないとか」
山田とのことや、最近の仕事に対する愚痴をポロっと舐めていた飴をつい出してしまったよう話してしまったのだ。
「あたしなんかさ、28歳って言ってるし」
そう付け足して、クスクスと笑う。
なおみさん、てゆうか年齢は皆サバ読んでますよ。
むしろ。そういいかけてやめた。
あたしは年齢だけは嘘をついてはいない。28歳。
嘘をつくことなどもない年齢だし。
あたしは、そうかもねぇ。なおみさんの細っそりとした指に目を落としつぶやいた。

待機時間が終わり、事務所で精算を済ませ、淀んだ空気の待機場を出た。
身体にタバコの匂いと風俗特有の匂い(独特な)が染み付いている。
あたしは自転車にまたがり、薄暗くなった夕方の空を見上げる。
燃えるような夕日に気圧されるも、必死で自転車をこぎ出した。
車の免許を持ってはいない。なので自転車で通っている。
都心は自転車で結構だけれど、免許証はいつかは欲しいと思いつつも、すでに28歳だ。
《かみかぜ託児所》の前で自転車を停める。
ガラス越しから見える、りなが先生と一緒に積み木を積んで遊んでいるのが見えた。
りなはもうすぐ2歳だけれど、未だ保育園の空きはない。
あ、ママだ。
りながあたしの姿を見つけ、口パクであたしの方に指をさす。
あたしは、りなに手を振ってにっこりと笑う。嘘のない笑顔で。
「まだ、独身ですよ〜。子ども?いつかは欲しいですね〜」
山田はこのセリフを信じているのだろうか。
子どもがいることだけは嘘をついているけれど、独身なのは嘘ではない。
燃え上がる夕焼けも燃え尽き始めあたしは、託児所のドアに手をかけた。
「ママ!」
__________
※たくさんの嘘をつくことで風俗の仕事が出来るのかもしれない。
風俗嬢は女優だから。
誰でも辛いときがあるし、泣きたいときもある。
無理はしないよう、仕事をしましょう。

風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。

 
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