【 みゆきの場合 34】かわいい男




風俗で働く女の子の物語。

あなたは彼女たちを批判する?

それとも共感?

今回は34人目のあたし。みゆき。

1人目はこちらからご覧ください。

みゆきの場合

「ちーっす」

今日もまた同じホテルの同じ部屋。偶然ではないよね。意図的なのかしら? 住んでないよね。そうゆう思考をふりきりながら

「ちっーす」

あたしもまた同じ挨拶をおうむ返しする。テーブルの上にはレモンの缶チューハイが2本無造作に転がっている。ついでにローソンの唐揚くんとチータラ。唐揚げくんの匂いが一気に空腹をあたしに思い出させる。

「みゆみゆ、元気だった? 俺さ、みゆみゆと抱き合いたくてまた呼んじゃったよ」

ハスキーな声で甘えたことをゆうお客さんである、なおとくんは26歳のフリーターだ。あたしは、そう、まあ、ありがとうね、と、柔らかく笑う。

「でも、なおとくんさ、5時からバイトじゃなかったのかな?」

なおとくんは急に押し黙って眉間にシワをよせつつ

「わーわー。それをいわないでよぅ。現実逃避行してたのにぃ」

すでに真っ裸でいるなおとくんは頭から布団をひっ被った。おい、おい、かわいいじゃないか。参ったよ。お姉さんはさ。あたしは目を細めた。

「さーてと。今日はどうしょうか?」

今日の時間の過ごし方を訊く。普通なら射精目的で呼ぶ男性ばっかりだ。それが当たり前だとずっと思ってきた。風俗嬢になってから3年。三十路になったところで男性とゆうものは奥深いなと改めて知った。男性はぞんがい弱音を吐露するし、利害なき風俗嬢には瑣末な自慢話を大げさにしてくる。とくに既婚男性は子どもの自慢がたいがいに多いし、独身者は自分の趣味や仕事でこんなに年収があるんだぞー。的な自慢を披露する。

あたしは特に自慢できることなどはないし、人の自慢話しを聞いても腹が立たないのでそれが功を奏したとばかりに指名客いる。

男性はさ、よーするに反発なしに自慢を披露し褒められたいのだ。きっと。

「じゃあさ、今日もいつものね。みゆみゆ」

「うん。わかったわ」

いつもの。いつもの。あたしは2回ほど口ずさんでからシャワーを浴びにゆく。一緒にはしない。なおとくんは先にシャワーをしている。一緒にシャワーをするのが嫌いなのだ。

「だって、なんだか、ふーぞくにきたみたいだもん」

え? あたしは口をポカンをあけていた。あなた風俗嬢を金を払って呼んでいますけどね。なおとくんはその実。風俗嬢を呼ぶのはあたしがはじめてだったのだ。

シャワーから出るとなおとくんのいるベッドに滑り込む。そうして裸で抱き合ってキスをついばむ。そうしからなおとくんの耳をそうっと甘噛みをして髪の毛を撫ぜる。そうっと。そうっと。

しばらくするとあたしの胸の中で寝息が音を立て始める。

あ、寝たみたい。

あたしの役目はここで終わる。

「俺さ、丸2年間ずっと引きこもりだったんだ。それであまりにも暇でオナニーばっかりしていたらいつの間のか精子が出なくなったんだよ。でね、それ以来不眠なんだ」

最初に出あったとき、真っ先にその話を切り出されかなり戸惑った。そんな若いのに、そんなに容貌に恵まれているのに。射精ができないなんて。嘘でしょ?

あたしは射精に導こうとして必死で仕事をした。けれどお話のように全くもってボッキもしないし射精の気配もなかった。嘘。嘘。あたしは悲劇のヒロインぶって叫んだ。

「だから、いった通りだろ。だからさ、いいの。俺さ、癒されたいだけ。お姉さんの胸に抱かれたいだけ。きっと愛に飢えまくっているんだよ……」

「…、そ、そっか……」

そっかじゃないだろ? 医者に行けよ。とも思いもしたが、精神科にも通っているとゆうのでそこらへんの奥深い悩み相談は精神科医にお任せした。

なおとくんの顔はかっこいいとゆう単語ではなくかわいいとゆう単語が似合っている。あたしよりもまつ毛が長いし、肌の色もぎょっとするほどに白い。妖怪ではないのかしら。と訝しんでしまうほどに。

タイマーの時間を多めにとってある。あと、40分は眠れるだろう。あたしはなおとくんの顔をみつめる。肌がつるんとして綺麗だしヒゲも生えていない。かわいいなぁ。お客さんとして出会いたくなかったな。たとえば、バイト先で出あってこんな関係になって付き合うとか。そうゆうの。

なんてね。

お客さんとして出会いたくないお客さんが本当に本当にたまにいる。出会いが風俗だった。たまたま風俗だった。けれど、それってどうなのかなぁ。やっぱり過去バレしているから付き合うのは無理な気がするなぁ。

ぼんやりと考える。あたしも目をつぶる。きつくつぶる。

胸が大きいからきっとあたしを指名するのかなぁ。だってあたしFカップだもん。

なおとくんはいよいよイビキをかき出した。今日もあたしはどうやら精神安定剤になったようだ。

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※誰かの精神安定剤になれるのって嬉しいことですね。

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藤村 綾

風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。