【あきらの場合 35】なんのために?




風俗で働く女の子の物語。

あなたは彼女たちを批判する?

それとも共感?

今回は35人目のあたし。あきら。

1人目はこちらからご覧ください。

あきらの場合

「お・ねーさん! 暇ぁ?」

 

BARのカウンターの一番隅の席に座ってハイボールの炭酸割りを飲んでいたら、
2席向こうの男(若い)に声をかけられた。

 

暇か? といえば暇なのかもしれないし暇ではないのかもしれない。
あたしはクスッと笑ってハイボールを口に含んだ。

 

奢るよ、その声にあたしは、いいわ、もう帰るから、と、いいかえして席を立つ。
テーブルの上に五千円札を置いて重たい扉を開けた。

 

凶暴的だった夏が嘘だったみたいに秋の夜気は冷房か! と勘違いするほどに空気が冷たい。
けれど、冷気は天然物だ。半袖だと肌寒いくらいなのでカーディガンを羽織っている。

 

ーちょっとだけ飲み過ぎたかもー

 

おぼつかない足取りがあまり強くもないお酒にのまれたとゆうことを知らせる。
空腹だったこともある。なにかお腹に入れて飲むとゆうことをあたしはしたことがない。

いや、しなくなった。この身体を維持するためなら食べ物を胃の中に入れるなどとゆうのは死活問題に関わってくる。

 

螺旋階段を登る。おもてから堂々と入っていけばいいけれど、
呼び込みの兄ちゃんや、ホストらがビルの前にうじゃうじゃと蟻のようにいるので裏口から入るようにしている。

階段で5階。酔いがさらに回ったようだ。螺旋階段もくるくると回っている。そういえば。

 

「あきら」

 

有線が大ボリュームでかかっている、
廊下を歩いていたら、名前を呼ばれた。
振り向くと、眉間にしわをよせた、無駄にイケメンの雇われ店長だった。

 

「なあに? 雇われさん」

 

有線がうるさいので大声で話さないと聞こえない。
けれど、今のあたしには大声はだせない。
無駄なカロリーを使いたくないから。

 

「また、待機中に酒飲んできたのか」


酒くせーんだよ、たくっ。
雇われさんは、鼻をつまんであきらかに嫌そうだ。

嫌そうだとゆうかお客さんに酒を飲んでいるのがバレるのがまずいのだろう。

 

「そうよ。いいじゃないの。だって、今から吐くし」

 

文句ある? あたしは目で威嚇した。

文句もいいたくなるよなぁ、こんなヘルス嬢がいたら、
こんな酒好きで拒食のヘルス嬢がいたら痛すぎるし、見たくもないもの。
わかっている。そんなのは。

個室待機なのでお客さんがつかないときは、スマホで動画を見たり、
彼氏とLINEしたりして退屈もなく過ごせる。
冷暖房完備。清潔な部屋。お菓子やジュースは食べほうだいだし飲み放題。
お菓子などは手をつけないけれど、コーラーやジンジャーエールなどは無料で助かる。

 

これでトイレがついていたら最高なのになぁ。いつも思うことだ。
あたしはすっけすっけの青色のキャミソールに着替えて鏡の前で鎖骨と脇柄の骨を確認しトイレに急いだ。

 

口の中に指をそっと入れるだけで吐けるようになっている。
マーライオンなの? あたし? と、見紛うほどダーダーと液体が流れでる。

 

BARに行く前にミートスパゲッティを食べて、いや口の中に入れ何度か噛み砕き吐き出すとゆう行為をしてきた。
口に入れて吐き出す。味覚だけ感じ胃の中には入れない。

 

以前は胃に入れて吐いていたが血糖値が下がりすぎてしまい倒れたことがあってやめた。
なので食べて砕いて吐くとゆう行為を続けている。もうまともにご飯など食べることは出来ない。もっと痩せたい。
あたしの身体は主に『酒』で構成されている。

 

胃の中のものがなくなるとすがすがしい気持ちになる。
勝ち誇ったような怖いものがなくてあたしは世界一可愛くて人気ナンバーワンの風俗嬢に思えてくる。

 

うるさい有線の廊下を歩いていると愉快になって笑いがこみ上げてきた。

 

所々の部屋からは「やん、もう」だの「そうだね」だの、男と女の声がする。
たまにいやらしい声を出す嬢もいるけれど、あれは演技なのだろうか。本当に感じているのだろか。

わからないし、本音はどうでもいい。

 

他の女の子との接触はなるべく避けるようにと部屋を与えられている。

女同士で集まるとろくなことがない。

雇われくんが面接のとき、語尾を強めて教えてくれた。まあ、そうかもしれない。
だって、風俗嬢はさ、個人営業なのだから。

自分のプレイスタイルを暴露し合わないでもいいし、
なにも話さない方のがいい。
人間関係こそめんどくさいのだ。

 

あたしはなんのために酒を飲み、物を吐き、毒を吐くのだろうか。
こんな賑やかな世界にいてこんなにも孤独で意固地な女はあたしだけではないのだろうか。
くそっ。あたしはさっき自分でメイクしたベッドに寝転ぶ。

 

天井は嫌味なほどに真っ白で、それすらもまがまがしかった。

 

《ピー・ピー・ピー》

 

部屋にあるインターホンの音。起き上がって受話器を上げる。

 

『あきら、お客さん、フロント来て』

『はーい』

 

やる気のない声でこたえるも多分雇われくんは聞いてはいない。

 

「よっし、今日は荒稼ぎだ!」

 

やる気をだすために声を張り上げ自分を鼓舞する。
とにかく働くしかない。あたしはなんといってもナンバーワンヘルス嬢なのだから。

 

@NAISHO

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藤村 綾

風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。