エピソード

【あやの場合 36】さようなら、風俗嬢のあたし

風俗で働く女の子の物語。
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感?
今回は36人目のあたし。あや。
1人目はこちらからご覧ください。

あやの場合

もう、半年くらい風俗の仕事に行っていない。
あやちゃん、指名だけれどいけるかな
なんてゆう電話、あるいは、メールなどはあったけれど、いくばくかの無視によってその電話もメールもいつの間にかないものとなった。ほっとしている自分の方の割合がでかいことにおどろく。
20年以上も風俗業界に身を置いていたのだから。
仕事に行っていない理由は単純に『いやになった』からと『好きなおとこが好きすぎる』なんて笑えることと『きちんとした普通の仕事についた』とゆうことだ。
風俗嬢をうん十年としてきてもその間に結婚し(離婚したけど)子ども産み育てあげ、その間にデザインの専門学校にも行きなんとなくその世界にも足を突っ込んでいた。
なので風俗雑誌の紙面をつくったり、名刺やチラシ、リーフレットなどもつくれるようになり、外注デザイナー兼風俗嬢兼主婦とゆう三つのわらじを履いて三十代を過ごした。

どこか漠然とはしないけれど、風俗嬢は死ぬまでするのだと思っていた。
あやちゃんは、生粋の風俗嬢だ、天職だ、風俗嬢になるために生まれてきたおんな、え?
とまでいわれたこともある。
風俗の仕事を毎日していて生理などで一週間も休むと身体がうずいた。
仕事がしたい。男性の性器を舐めたい、あたしの陰部を舐めてほしい、
そんな邪な気持ちはどこか依存症患者のようだった。

風俗の仕事をしているときのあたしは気のせいでもモテテいた気がする。
かわいいね、綺麗だね、おとこたちは、おんなが最も喜びそうな言葉の羅列を選んで口にし、
その気にさせ、過剰なサービスを求めた。けれど変態なあたしはお客さんの要望に対して断った記憶などはない。
「てゆうか、あやちゃん、サービス旺盛だ!」
しょっちゅうお客さんにいわれた。嘘でもなんでもない。本当に好きで過剰なサービスをしていたのだから。なので指名客もほどよくつき、10年来のお客さんもいたほどだ。

しかし、と、思う。常連さんにはかいもく恋愛感情やら情やらは全く湧かなかった。ただ、まあ、呼んでくれてありがとうね。てゆうかこんなつまらないおんなを呼ぶなら他を呼んだ方が楽しいかもね
いつもそんなことを考えていた。
結局、お客さんはどこまでいってもお客さんなのだ。何度あおうとも何度良くしてくれても何度もお金を落としてくれても。それ以上でもそれ以下でもない。

死ぬまで風俗嬢であろうと半ば決め込んでいたけれど、あたしの気持ちを遮ったのはなんと『離婚』だった。
離婚をしてシングルマザーになったなら余計風俗の仕事に邁進するだろう根拠はやはり金だ。
けれど、その前に子どもらに『ママは風俗で働いているのね』などといえるわけがない。
あたしは、離婚をしてすぐに普通の会社のパート社員になった。

最近子どものスマホを買い換えることに遭遇し、ぎょっとなったことがあった。
「えっと、スマホの本体が10万を超えますので、すみませんが、ここにお母様の勤務先、電話番号、住所を記入してください」
そう、いわれたのだ。えっ? いままでこのようなめんどうなことなどなかったのに。どうして?
「あ、えっと、制度がきつくなって。まあ、一応の確認です」
ショップ定員は軽くいいよどんだ。
「パートです」
「いいですよ」
今勤めている会社の名前を記入した。横には娘が座ってあたしの手の動きをみつめている。なぜだかほっとした。職場の名前が書けたことに。

おかしなもので以前ならやけに風俗の仕事をしたくて死にそうになったし、嫌で死にそうになったこともあるのに、ずっと風俗の仕事をしてないと身体が忘れていくようだ。
たくさんしてきたことなのに、今ではどんなことをしていたのかうろっとしか思い出せない。
あたしの風俗嬢人生はすんなりと幕を下ろした。それでも過去は消せないし、たくさんのおとこがあたしの裸をみていった。まあ、それはそれでもいい。

風俗の仕事1本分は今のあたしの1日のパート賃金にあてはまる。時間給で働いている。約6時間労働である。お金だけを考えるとなんてバカらしいと思いがちだけれど、あたしはそのバカらしさにやっと慣れてきたところだ。
愚痴をこぼしたり、風俗の仕事をいやいやしているならやめたほうがいい。結局決めるのはいつも自分なのだから。
風俗の仕事しかできな〜い。なんてことはない。あたしが出来たのだから。絶対に大丈夫。風俗依存症だったけれど、あたしは今さらにきちんと克服をしたのだ。

なにが正解でなにが正しいとかそのような定義などはないし、人の生き様などさまざまであってけれど、誰にでもいつでも胸を張っ笑顔でいられる毎日を過ごさないと損である。
泣いても笑っても時間は過ぎてゆく。あたしは決して過去を振り返らないし、風俗嬢だった自分を褒め称えてやりたいし、ささやかなお祝いもしてあげたいなんて思っている。

風俗嬢をしても恋愛感情だけは忘れないでほしい。愛する人がいるだけでがんばれるから。
さようなら、風俗嬢だった、あたし。
藤村 綾

風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。

 
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