【まさみの場合 18】秘密の老(朗)読会




風俗で働く女の子の物語。

あなたは彼女たちを批判する?

それとも共感?

今回は18人目のあたし。まさみ。

1人目はこちらからご覧ください。

まさみの場合

最近視力がガタンと落ちてきてメガネをかけるよう眼科で勧められた。

今まで見えていた遠くの看板や、信号。あるいは待機所にあるホワイトボードに至るまでとっても見えづらくて、目を細めながら文字を追っていた。

「ゲゲッ、まさみちゃんさ、目つきが超〜〜こわ〜っ!」

アイちゃんに目つきのことをひどく指摘されたことで、あたしは自分の視力が落ちていることを知ったのだった。

「うん、そうなのよね。目が悪くなったみたいでお医者に行ってね、処方箋を書いてもらったのよ。でね、1.0だったのが、な、なんと、0.1になってたのよ!」

「わ!わ!なんでそんなに悪くなったの?アイはさ、コンタクトでやっと、0.5まで見えるくらいに目が悪いけどね〜」へへへ。アイちゃんはどうでもいいことでも真剣に質問をしてきて、へらへらと笑う。

まあ、いいけれど。

「ん〜」

あたしは、眉間を指で押さえつつ心当たりを探ってみた。

「おーい。まさみさん仕事だよ。下に送迎車が迎えに来てるから行ってくれるかな」

出勤して直ぐの仕事は誠にありがたい。

げんを担ぐではないが、出だしがいいと待機の時間もないほど連続でお客さんがつく。

お客さんありきのこの仕事。

あたしは独身だけれど、人妻デリヘル店に従事している。

理由は『人妻』とゆう響きがエロスをかもし出しているし、『人妻』だとゆう肩書きがあればお客さんは無理強いをしないだろうなって思って。

事実、客層も年齢が高い。

特にあたしが出勤をしている昼間の時間帯は特にそうだ。

午前10時から午後5時までがあたしの出勤時間。夜は泥酔客が多くなると訊いてやめた。

あたしは実はなんと来月結婚をする。そのために割り切って風俗嬢をしている。

彼氏は無論知らない。なので夜出勤ができないという理由もある。

「え〜。また例のおじいちゃんなの!」

送迎車に乗ったせつな、ドライバーの真木さんから渡されたメモを見て、文句を垂れた。

真木さんは、ああ、そうみたい一っすね〜、とゆう他人事の気のない返事だ。

「でも、いいじゃないっすか。毎週だいたい指名で呼んでくれて。仕事の口火を切ったのはまさみさんですよ。昨日今日と」

後部座席の左側に乗る風俗嬢が多い。

どうしてだろう。と、考えたこともあるが、運転席にいるドライバーさんとしゃべるときは左側の方がいい。

一瞥をくれたとき、少しでも顔が見れるから。かといって真木さんの顔を見たい訳ではないのだけれど。

「ああ、まあ、ねっ」

あたしは曖昧に頷いた。

「でもね、」

「はい?」

ありがた迷惑って言葉を知ってるかしら。

真木さん。ん?と、言いかけたがどうでも良くなって、あ、なんでもないわ。と、続けた。

真木さんは、あ、そう、と言いたげな顔をし指定のホテルに向かってハンドルを握る。

車窓から見る午前中の街の喧騒。

車はたくさん走っている。春の風を切りながら爽快に。

桜はすっかりと散って、今は緑の葉っぱが顔を出している。

「いってらっっしゃーいー」

「いってきまーすー」

ホテルについて、あたしは送迎車から降りた。

恋人同士みたいに手を振って真木さんの車の後を眺める。はぁ。あたしは「じいちゃん」の待つ部屋に向かった。

「おお。まさみちゃ〜ん、待ったよぅ。久しぶりだねぇ」

は?5日前にも呼んだでしょ?と言いたげだけれど、ぐっと我慢し、

「ええ。お久しぶりでーす」

なんて可愛い声を出す。

白井のじいちゃんは80歳を少しだけ過ぎている年齢だ。

おばあさんが死んだ4年前からデリヘルにはまった遅がけの風俗デビュー者。

白井のじいちゃんはここ1年前くらいからあそこがとうとう死んでしまった。何をしてもびくともしない。

「さて、今日はね、ここから読んでね。ここ。印が打ってあるところからね。服装はノーパンでノーブラでてーしゃつ(Tシャツです)1枚でね」

「あ、はぁ」

あたしはじいちゃんの要望どおりの格好をして、じいちゃんから本を受け取った。

【愛欲に溺れた人妻奴隷の羞恥心】

官能小説だ。

じいちゃんは60分間あたしに本を読ませ、身体を隈なく触ってくる。

これもプレイの一環でじいちゃんの唯一の性欲のはけ口なのだ。

最初はたどたどしく読んでいたが、最近ではすっかり朗読が上手になった。薄暗い部屋で活字を読む。

じいちゃんは、あまり明るいのは得意ではないらしい。興奮が半減するそうだ。

「っと、」

本に目を落とし活字を拾って声を出す。

『聖子の陰核からはどめどなく愛液が溢れだし、太郎は聖子の汁を舌を出しながらちゅるちゅると啜る、あああ、そ、そんなぁ、た、太郎さぁ〜ん、せ、聖子、イキそ、そ、』

読んでいて笑える場面もあるが、あたしは活字が大嫌いで小説もとい、新聞なんて読んだことなどはない。

仕事だと思って読んでいる。

じいちゃんはうっとりした表情で耳を傾ける。

その顔を見るとやっぱり嬉しい。

精液を抜くのだけが風俗嬢の仕事ではないのだとじいちゃんをもって知ったことだ。

癒しを求めてくる男性もたくさんいる。白井のじいちゃんみたいに。

大概読んで、じいちゃんはあたしの身体を触って膝枕を堪能している。

「まさみちゃん、だんだんと読み聞かせ上手くなったなぁ」

「へへへ。まあ、しょっちゅう読んでるので」

あ!

あたしは思い出したよう声をあげた。なに?じいちゃんは目を向ける。あたしは意図もなく話をしだした。

「最近目が悪くなったんですよ。暗いところの読書のせいかなぁ?」

「え?本当か?じゃあ、うちのせいでもあるな。無理させて悪かったな。まさみちゃん、すまんなぁ」

しまった。あたしは自分の言ったことを後悔した。なのでこう言った。

「あはは、違いますよ。老眼ですね。ははは」

嘘くさい笑いだった。老眼な訳ないしなぁ。言ってまた後悔をする。

じいちゃんがあたしの膝枕から離れ、なにやら茶封筒を持って戻ってくる。

「はい。これ。まさみちゃん。受け取って。うち、今日でここに来るのも最後なんだ。とうとう免許証を返すから。息子にもう車はダメっていわれてさ」

だから、はい。じいちゃんはなんとなく鼻声だった。

「え?なあに?」

「まあ、まあ、ラブレター」

へへへ。白井のじいちゃんの最後の笑顔は少年のようにかわいい笑顔だった。

「えええ!」

送迎車に乗ってからすぐに茶封筒の中を確認すると、ピン札で12万円も入っていた。

じいちゃん、ありがとう。あたしは胸が熱くなる。

「あのさ、真木さん、駅前のメガネ屋さんに寄ってくれないかな?」

「え?いいですけどぉ。まさみさん目悪かったんですか?」

あたしは大きくうなずいた。ええ。そうなのよ。

ちょうど眼科でもらった処方箋も持っている。そして、お金ももっている。今買わないでいつ買うの?

「今でしょ!」

「え?」

あたしは、真木さんのことなどどうでもよくて新品のメガネのフレームの色やデザインなどを考えるとワクワクした。

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※風俗は出会い。いろいろなお客さんがいるし、別れもある。

歓送迎会の季節ですね〜。泥酔客が増える時期。うまくあしらいましょうね(笑)

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藤村 綾

風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。