【ナホリの場合 12】妬みとか僻みとか、さ、




風俗で働く女の子の物語。

あなたは彼女たちを批判する?

それとも共感?

今回は11人目のあたし。ナホリ。

1人目はこちらからご覧ください。

ナホリの場合

「ナホリちゃんってさ、なんで写メ日記書かないのぅ?」

120分の仕事が終わって辟易しつつ送迎車の後部座席の左側のドアをあけると、先約がいて、あ、すみません、慌ててドアをしめ、反対側の席のドアを開けて急いで乗った。

タバコとお酒の臭いとワキガの臭いのダブルパンチで鼻がもげそうになる。わ、臭え〜。音にはしないけれど、口だけ動かす。

アヤメさんはあたしの顔を見るなり、写メ日記のことを言いだした。

「え?」

写メ日記?なんで?確かに面倒くさいので書いてないけれど……。あたしは、首を傾げ、あ、ははは。なんて苦笑まじりに笑った。

「てゆうか、あたしなんかさ、毎日、毎日、こまめに写メ撮って書いてるのにさ、全くパネシ(ネット指名)ないのよ。書いてさ、需要とかあればいいよ。でも、」

そこで一旦話を中断し、再びタバコに火をつけた。

ドライバーの大山くんが助手席の窓をシラーっと細くあける。話はながながと続いた。

「でも、さ、ナホリちゃんって書かないのに、お茶なんてことないでしょ?なんで?店長に媚び売ってんの?」

はあ?

あたしはそのもの言いに至極腹が立った。

日記を書く書かないのくだらないことでなぜあたしがこんな嫌味を言われないとならないのだろう。あたしは、首を横にふった。そんなんじゃないけれど、拳を握る。

「かわいいし若いからって言っていい気になるなよな」

40手前の女の戯言だ。アヤメさんはそれに酔っている。

缶ビールを飲みながら接客をしているし、いつも焦点のあってない目をしフラフラとおぼつかない足取りでホテルに入ってゆく。

あたしは俯きだ口を噤んだ。

あたしの従事しているデリヘル店は若い子も居れば、そうでない人もいて、今どき珍しい括りのないスタンダード店。

あたしは29歳だけれど、お店の中では若いほうだ。

あたしは酔っているアヤメさんに向かって口を開いた。

「日記はわざと書いてないんです。子どももいるし、ネット社会ですから。シングルマザーだしで。店長にはわけをいってあります」

大山くんか。ワキガの正体は。臭い。本当に。わりと真面目な話をしているのに、顔の筋肉が思い切り緩んでしまう。

「ふーん。あ、そうなんだ。てゆうか、ニヤニヤするなよ」

「あ、す、すみませ、ん」

プッ。本当になにもかもがバカらしくて糸が切れたたこのように笑いの嵐が襲ってきて、

「はははっ」

お腹を抱えて大笑いをした。

大山くんが信号待ちで後ろを一瞥し、なんすか?まるでワニのような形相を向けるのでさらに笑いのツボにはまる。

「アヤメさんも笑いましょう!」

「はあ?」

夜の10時半。平日でもなぜこんなに車が走っているのだろう。車のエンジン音とあたしの笑い声だけがこだましている。

「もう、ナホリちゃんには負けるわ。ナホリちゃんの笑顔できっとお客がつくのね。きっと」

あたしはもめ事がほとんど嫌いだ。離婚調停のとき散々に味わった。風俗嬢をしていたのがネットでばれて離婚をした。夫は風俗に寛容ではなかった。真面目を絵に描いたような男だった。理系男子。

「ナホリさんって源氏名って、もしかして『ナポリタン』からとったんです?」

ドライバーの大山くんがワキガの臭いを撒き散らし訊いてくる。

え?そうなの?アヤメさんもあたしの顔を覗き込む。アヤメさんの頬から赤みが消えている。

「はい!そうですよ。本当は『ナポリ』にしたい。ってゆったら、ダメ〜。って却下。で、『ナホリ』にしたわけです。はい」

「ヤダァ」あははは。アヤメさんと大山くんが同時に笑う。

「えー。いいじゃんよぅ」

小学3年生の娘がナポリタンスパゲティーが大好物でそこから名前をつけた。あたしは娘のためにお金を稼ぎ、娘が小学校を卒業するまで風俗嬢をやると決めている。

「そっか。そっか」

普通に話をしたらすごくいいお姉さんだ。あたしはあまり女の子と深く関わらないようにしている。だって、仲良くしていても急に辞めたりする職場だ。

アヤメさんの気配が薄くなったと思ったら、いびきを小さくかいてうたた寝をしていた。

「ねぇ」

大山くんの肩を叩く。

「は、はい?」

「あのね、ワキガだと思うよ。大きなお世話かもだけど。アヤメさんはね、酔っているからね。わかんないのね」

とうとう言ってしまった。大山くんは、えええ?なんてゆいつつ自分の腋窩を執拗に臭いを嗅いでいる。

(てゆうかさ、ワキガって自分ではわからないんだよね)

娘はいつもおばあちゃんが見てくれている。きっと、もう寝てるよね。ママ、いつも夜いなくてごめんね。心の中であやまりつつあたしもシートにもたれ疲れた身体をあずけた。

(臭っ)

シートも臭かった。

__________

※シングルマザーの子が多い風俗業界。ママは強し。あたしも子どもが2人いて幼いとき、寝かしてから風俗の仕事に行ったりしました。笑

オススメコラムはこちら!

【風俗の仕事に迷いがある子に贈る】風俗嬢に元気をくれる1冊をご紹介

@NAISHO

NAISHOスタッフへのご相談はLINEからどうぞ!

ナイショに届くご相談内容参考記事はこちらから!

(女性からのご相談のみお受けしております)

藤村 綾

風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。