エピソード

【のぞみ場合 27】小説家のフーゾク嬢

風俗で働く女の子の物語。
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感?
今回は27人目のあたし。のぞみ。
1人目はこちらからご覧ください。

のぞみの場合

「なぁ、お前さ、駅前のヘルスでさ、働いてるよな? ヤスに聞いたってゆうかさ、お前ヤス相手にして気がつかなかったの? マジで?」
目の前の人の言葉がうまいこと耳に入って来ない。
口の中がサハラ砂漠になっている。
喉がカラカラ過ぎて唾すらも1滴も出て来ない。
お願い。そんな目であたしを見ないで。お願い。これは夢であって。直樹。なにか言ってよ。
直樹は口を1文字にしたまま、あからさまに落胆をしているふうに顔が床とにらめっこをしている。
ああ、もうダメなのかな。
あたしは終わった、と心の中でひっそりと終止符を打って、部屋を出ていった。
あたしはコマンドSで保存をしたあと、書いたものを担当さんに【秋乃】と名前をつけたフォルダーを送信した。
は〜。終わったぁ。締め切り1日前。
赤ペンがおそろしいほどきっとくるけれど、締め切りだけは絶対に守るのがあたしだ。
お腹が痛かろうが熱が出ようが台風だろうが、絶対に締め切りは守る。
小説家もそうだけれど、締め切りのある仕事の人は締め切りが仕事だといっても過言ではない。
締め切り必須。それが守れたら仕事などなんとかなるものだ。
あたしは風俗作家だ。
作家などというと大げさだけれど、風俗嬢をしながら風俗小説を細々と書いている。
本は3冊出し、名前も多少知られているだろうけれど、谷崎潤一郎ほど有名ではない。
て、あたりまえか。
年齢も顔も不詳にしてあるため、デリヘル嬢を大ぴらに出来るのはありがたいし、なにせネタの宝庫。
そしてなによりもあたしは風俗という仕事が好きなのだ。
風俗の仕事をしつつ、文を書く。
一石二鳥とはこのことかもしれない。店長だけには言ってある。
あたしが【川村ルリ】だとゆうことを。

「川村ルリ?嘘だろ?俺さ、本読んだことあるし」
店長はまだ25歳という若さだったが、文系で顔に似合わず本好きだったらしく、マニアックなあたしの書いた本を読んでいた。
「え、まあ、そうなんですよ。なので、もしかして、この店のことを書いてしまうおそれもありますが、決して店の名前は出さないので」
そう前置きをしたせつな、店長は
「いいよ、いいよ!ルリちゃんの好きにして。嬉しいなぁ」
能天気に言い切る店長だったけれど、断られなくてよかったと肩をなでおろした。
「でも、源氏名は【のぞみ】でいいですか?」
「え?でも、のぞみって、ルリちゃんの本名じゃないの?いいの?」
事務所はとっても清潔に保たれていて店長は綺麗好きなんだな。と、内心思った。
ささいなことを気にしてくれる店長の顔はよくみると端正な顔立ちをしている。
「いいんです。だって【ルリ】って源氏名じゃないですか。むしろ」
「あ、そっか。そっか」
あたしたちはお互いに目を合わせつつケラケラと屈託なく笑った。
『のぞみさん指名で仕事入ったから』
あたしは自宅待機にしていて仕事が入ったら、ドライバーが迎えにくることになっている。
パソコンを一旦閉じて急いで支度をする。
書いたところが途中だったので強制的に、【あたしは、ぎゅっと目をつぶりひらすら好きな音楽を脳裏で鳴らした。】と、締め括った。
小説の中のたくさんの登場人物の風俗嬢。
年齢も容姿も癖も多種多様の風俗嬢たち。
それってもしかして全部……。
あたしはときおりわからなくなる。どれが本当の自分なのかを。

「こんにちわ〜」
場末の小汚いホテルに運搬をされた。
Amazonの送料は値上げされたが、風俗嬢の値上げはない。
チッ、あたしは控えめに舌打ちをする。
「おお、本物ののぞみちゃんだぁ」
お客さんは全く普通の取り柄のないサラリーマンだ。年齢は40代前半だろうか。
こんな普通めいた男性ほど風俗を利用し弱音と愚痴と精子をばらまいてゆく。
風俗は人生相談をするところではないが、以前に比べ風俗嬢に悩みなどを吐露するお客さんは増えた気がしないでもない。時代か。
「本物って。なにそれ」
あたしはくだけた口調でケラケラと笑う。
「ネットで見るだけだとさ、来るまで本当にのぞみちゃんがいるのって信じれられないんだよね〜」
お客さんはそこまで一気にいったあと、タバコ吸っていいと聞く。
いいよ。と、了承したあと、話の続きを待った。
「なので、俺にしたらまるでアイドルなんだよね。風俗嬢さんはさ」
「あいどる?」
あたしはその言いっぷりが面白くってあははと強く笑う。
「だから、のぞみちゃんは俺のアイドルで、そのままの容姿端麗な女の子だったわけだ」
大げさな。あたしは、どうも。という感じで頭を少しだけ下げた。
お客さんはプレイの最中まるで腫れ物をあつかうようあたしに触れた。優しかった。
もっとぞんざいにしてもいいのよ。そうもいったけれど、お客さんは首を横にふって、最後まで優しかった。
あたしは自分でもわかっている。綺麗な方だし万人うけをするタイプだ。
一介の風俗嬢に対して誰にでも優しさを振りまいてはいないはずだ。
やはり、と、考える。人は見た目なのだろうか。
その実。あたしの小説家デビューは、たまたまついたお客さんが出版業界人だったのが理由だ。
そう、実力で勝ち取ったものではなく、この顔と身体があってデビューをしたのだ。
きっかけはそうだったとしても今は自分の足で立ち自分のペースで書いている。
あたしの小説に出てくる風俗嬢は美人は出てこない。皆容姿が悪くそれを苦難に生きている女ばかりだ。
もしかしてそれはあたしの心の中にいるあたしなのかもしれない。
わからなくなる理由はきっとずっと前からわかっているのにわからないふりをしているだけ。
「はぁ」
送迎車に乗り込むと助手席の裏のポケットに文庫本が無造作にささっていた。
そっと、手にとって見てみると、
【闇の中のダイアモンド】
なんともまあ、あたしの書いた本だった。
ドライバーの谷くんが、後ろを一瞥したあと
「あ、その本、ナミちゃんのですね。なんかもう何十回と読んだみたいです」
あ、そうなんだ。
ナミちゃん。えっと。ナミちゃんってだれだっけ。
けれど、確かに本の表紙はボロボロだったし何度も読んでいるのは嫌でも伝わったきた。
夜の8時。エアコンの効いた車内はまるで天国だ。
コロンの匂いはきっと谷くんのものだろう。まったく嫌な匂いではない。
あたしはボロい本を抱きしめつつ明日も執筆をがんばろうと心に決め、目をぎゅっとつぶった。
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※ あたしもいつか風俗作家になりたい。夢ですね〜。あは。

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