エピソード

【るうの場合 29】はいたり・ぬいだり

風俗で働く女の子の物語。
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感?
今回は29人目のあたし。るう。
1人目はこちらからご覧ください。

るうの場合

「あ、またあんたか」
フリーだったので「じゃあ、るうちゃん行ってと部屋に入ったせつな、お客さんの顔を見て胃がギュウと締め付けられた。
またあんたか。その台詞。まるっとお返しをいたします。あたしは心の中でつぶやく。
「てゆうか、あんたも今また俺!って思ったんちゃうの?」
がははは。下品な笑い声を発したあと、まあ座ってよ。とソファーに促される。
く、くさい。
このお客さんは決して忘れることなどは出来ない、猛烈な毒ガスを放つワキガのお客さんなのだ。
ワキガの人って自分では臭わないのだろうか。
部屋に1歩入った瞬間に匂うものだから、プレイの前から疲弊をする。
鼻がもげそうだ。
お客さんは他の嬢さんたち、あるいは奥さんまたは、子どもたちによってワキガを指摘されたことはないのだろうか。
フツフツと疑問が浮かんでは消えてゆく。

「えっと、何分にしますか?」
このお客さんは農家なので(農家がお金を持っているとか限らないけれど)いつもロングを頼む。
けれど、このお客さんに限ってはロングは拷問という呼称に変化をする。
「120分で」
へ?
思わず間抜けな声が出てしまいとっさに口元に手をあてる。
お客さんは、タバコを燻らせながらあたしの太ももを触ってくる。
ひゃ〜。きっつい〜。あたしは息を止めた。
「じゃあさ、今日も前と同じプレイ内容でいい?」
あ、ええ。あたしは曖昧に頷く。
前と同じでいいって。前のプレイを反芻する。
「これを着て。脱いで。着て。脱いで。を三回繰り返したあと、そのままシャワーをして俺の背中を流してくれ。」
これを着て。と、手渡されたものはなんともまあ、スクール水着だった。
紺色の普通の学生が着るもの。あげくピンクの帽子までつけて。
ピンクの帽子を被ったまま水着を着たり。脱いだり。
3回も繰り返してほとんど辟易をしたし、あたしなにしてるんだろうという疑問さえ生まれた。
生まれたものはもう仕方がない。疑問を抱えたままあたしはマネキンになった。
「るうちゃんさ、肉の具合がちょうどいい。食い込みがさ、最高!」
「え、あはは、ありがとうです」
あはは。あたしはもはや笑うしかなかった。
今回も同じことをさせれられた。
一緒にシャワーに行く段階になったとき
「あのぅ。お客さん」
あたしは声をかけた。
「なんだ?」
すっかり裸になったお客さんの下半身はまったく興奮をしていない。
あれ? 前回もそうだった。あたしは続ける。
「失礼かもしれませんが、ワキガっていう自覚ありますか?」
お客さんの顔の色がさーっとなくなっていく。
あ、まずいこと聞いちゃったかな。無言になった空間で後悔をしていた矢先
「ああ、知ってるよ。ごめんな。臭いよな。るうちゃんだけだな。はっきり言ったのは。俺以外とNG客になってるみたいなんだよね」
声をひそめつつ言葉を継いだ。お客さんはさらに話を続ける。
「ワキガの手術をしようと思ってるんだ。小学2年の娘にいよいよ臭いって言われたのがきいたなぁ。全くよ」
「そうですか」
ワキガの人は下半身も臭いらしい。
なので風俗の女の子に舐めさせたことがないと話してくれた。
「まあ、水着フェチだし、な」
と、茶目っ気たっぷりに付け足して。

「じゃあ、今度もしまたお会いしたときは臭くないのかな」
「うん」
お客さんは大きくうなずく。
そっか。あたしはお客さんと一緒にスクール水着のままでシャワーを浴びた。
そこに映るお客さんの顔は無邪気なおとうさんの顔になっていた。
「るうちゃんその水着あげるよ。今までたくさんの女の子に着せてきたけれど、るうちゃんがなにせぴったりだから」
目を細めあたしを見据えるお客さんは嘘はついてはいない。けれど
「てゆうか、それってあたしが肥えているからじゃないの?」
あたしは頬を膨らませ怒ってみせる。
「うん。そう」
え〜。あたしとお客さんはお互い顔を見合わせつつケラケラと笑う。
色々な人がいて、色々な人生がある。
あたしも前を向いて頑張ろうとより一層感じた。
《ピピピピ〜》
タイマーが鳴っている。15分前にセットしたタイマーが。

風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。

 
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