風俗で働く女の子の物語。
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感?
今回は10人目のあたし。せつな。
1人目はこちらからご覧ください。
【せつなの場合】
「ねぇ、せつなちゃんってさ、なんでそんなに細いのぉ?」
待機室はまるで女子校のように賑やかで皆一様にいい匂いがして、キャッキャとゆう声がしている。
となりに座っていたややぽちゃのヤエちゃんが、あたしの腕を掴んで怪訝そうなそれでいて痛々しそうな形相を向ける。
「あ、」
ヤエちゃんはなんの意図もなく腕を掴んだけれど、とっさにあたしは振り払ってしまった。
「ご、ごめんね。せつなちゃん」
「や、ち、違うの。そ、急にね、掴まれたから少しだけ驚いただけなの。ヤエちゃん、こちらこそ、びっくりさせてごめんなさい」
ヤエちゃんはまあるい顔を向け、ニタッと笑った。
笑った顔から八重歯がのぞく。八重歯が印象深くってヤエちゃんの源氏名がついた。
ヤエちゃんはいつもコンビニのおにぎり3つと、ゆでたまごと、からあげくんを買ってくる。
そうして、とても優良な顔をして美味しそうに食す。
食べるのが大好きだよ。なんて豪語するだけあって、ふっくらした体躯は見事に表面に表れる。
(ヤエちゃんは自分が太っているってこと、自覚しているのかなぁ)
(まきちゃんもなんでそんなに美味しそうにラーメンとチャーハンの炭水化物・炭水化物を食べれるの)
待機室にいると食品の匂いで噎せそうになる。
あたしは決して太りたくない。21歳。若くて細身。
それだけで自動的に新規のお客さんがつく。仲良くしていても皆ライバルだ。
(みんな、もっと食べて太ればいいんだ)
負けたくない。
あたしは、いつ頃からか、うまく食事が取れないでいる。
今日は朝、カフェラテの無糖といろはすだけ買って待機場に入ってから一度だけ戻ったきり、午後11時までずっとお客さんがついた。
『せつなちゃん、細い〜』
『ちょっと、痩せすぎ?でも俺、細い子が好き』
お客さんはあたしの肋骨を一本一本丁寧に愛撫するように触る。
脚は枝のように細く、けれど、張りだけは失われていない。
胸はBカップだけれど、小ぶりなおっぱいを気に入っているお客さんも多い。
絶対に太れない。あたしの身体は商売道具なのだ。
身体を売る代償はお金。お金を得る為に、身体を維持しなければ、仕事がなくなってしまう。
朝から水分しか摂取していない。
正直お腹と背中がくっつきそうなほどペコペコだ。
「おつかれさまです」
ドライバーにアパートまで送迎され今日の仕事が終わった。
アパートに入るや否や、血眼で冷蔵庫を開け、マーガリンとバニラアイスとコーラーと牛乳を取り出し、ストックしてある見切り品の食パン2斤を電気も暖房もつけずにガサッとあけた。
慣れた手つきで食パンにマーガリンをたっぷりと塗る。食パンは4枚切だ。半額で買ってくるので50円。
4枚の食パン全部にマーガリンを塗ったところで牛乳と一緒に一気に食べる。味なんでどうでもいい。
とにかく満腹になれさえすればいいのだ。食べている間は無心。
もうひたすら大食い選手のように詰めて、詰めて詰めまくる。
アイスの冷たさだけは辛うじてわかる。胃にものが入っていく感覚が。
目の前にあった食パン2斤、マーガリン1箱、アイスにコーラーが見事になくなってあたしの胃に収まった。
(ごめんなさい)
トイレに駆け込んで一気に吐く。
もう吐きなれていて指など突っ込まなくても吐けてしまう。
途中で何度も塩水を飲む。そうしたら上手に胃の中の不要なものが出切ってくれるのだ。
苦しい。死にそうだ。涙と鼻水が垂れ流しで、汚い汚物は容赦なく臭う。
「ははは」
便器の中に全部吐き出したものを見てあたしは笑う。
深夜の儀式が始まったのは約2年前。
もともとは普通体型だったが痩せるのが趣味になってしまい、過食嘔吐をおぼえた。
髪の毛がはらりと抜け落ちる。
くぼんだ目はまるで骸骨だ。
「あ、ははは」
鏡の中の骸骨は無骨に微笑んでいてあたしの顔をとても鋭い目で睨んでいる。
※過食嘔吐は心の病。きっと悩んでいる女の子がいるのでは?風俗嬢はね、身体を見せる仕事だけれど、ギスギスしていたらモテないよ。
適度な食事と運動ね。ストレスをためないよう。たまの甘いスィーツはご褒美。あまり神経質になるこなどないの。だってがんばっているんだもの。
to be continued…
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