エピソード

【風俗嬢のあたし⑤】いおりの場合

風俗で働く女の子の物語。
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感?
今回は5人目の女の子。
1人目はこちらからご覧ください。

いおりの場合

(なんで、この女の方がたくさん仕事につくわけ?はぁ?)
待機場の雰囲気はすこぶる悪い。
8畳程の部屋の真ん中に長テーブルが置いてあり、その間に等間隔に置かれたガソリンスタンドに置いてありそうなでかい灰皿にいっぱいの吸い殻。
灰皿回りには灰が溢れていて、誰も片付けようとはしない。
スタッフの仕事だと一任している。
来てみないと誰が出勤しているのか分からない。
他の女はネットで自分の店を見て誰が出勤しているか把握しているらしい。挙句日記も読んでいる。
あたしもその一員だ。
隣に座っている、まきさんは昨日は3人のお客さんについているはず。日記を見てわかったこと。
あたしはお茶を引くところだったのに。
待機時間30分前に、常連さんが偶然にも呼んでくれたのが救いだった。
常連さんというのは、こうゆうときだけはありがたい。

あたしは28歳のデリヘル嬢だ。
人妻という店に所属をしているが、見た目が童顔なので20代の前半に見られることもある。
隣から白い煙りがあたしの目の前を嫌味のように通過する。
まきさんはたばこを灰皿に置いているにも関わらず、また新しいたばこに火を灯す。
待機の時間が長ければ長いほどその行動が表れる。
顕著に苛立っているのがわかる。
身体の線にそった黒いタイトのワンピースからは、浅黒い腕と脚が不健康そうに伸びている。
デリ嬢年齢は32歳となっているが、どう見ても40歳くらいにも見てとれる。
燻んだ肌。
風俗が長いと風俗臭と、風俗肌になるよぅ。と、この前誰かが言っていた。
あ、確かもなちゃん。
もなちゃんは自分も風俗嬢なのに、どこか風俗嬢自分よりも見下している気がしてならない。
そのくせ負けず嫌い。ドライバーが言っていた。
「いおりさんってお高くとまってますよね」
と、言っていたらしい。
なんか話辛いっていうかぁ〜。別に美人でもないしね。あ、これさ、あくまでナイショね!
ナイショ。まで、付け足して。ナイショなら言うなっつーの。
「あ、そう」
あたしは、バックミラーに映るドライバー高橋の目を一瞥し、視線を外に戻す。
ナイショね……。
内緒ねというならば誰にもなにも言わないでほしい。
現にドライバーの高橋はあたしになんでも話をしてくるのだから。
あたしはこの狭いグレーな世界が大嫌いだ。
何もかも嘘くさくて、何もかもが褪せて見える。
けれど、あたしだって皆と同じような一介の風俗嬢になりたくはない。
他の嬢が仕事に何本ついたか。指名率はどうなのか。
とても気にしてしまう。

気にしてないふりをしながら他が気になり、まきさんのたばこの本数が増えるにまして安堵が押し寄せる。
「いおりさん、仕事入ったよ」
「あ、はい」
あたしは、白い煙を手で払いのけつつ、化粧ポーチを取り出す。
まきさんがまたたばこに手を伸ばした。
灰皿の中がくすぶっていて、もくもくと白い煙が立ち上ってゆく。
白くて細い線のような煙が。
to be continued…

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風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。

 
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