エピソード

【まゆみの場合】自分を奮起させれるのは自分だけ

風俗で働く女の子の物語。
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感?
まずは1人目。

まゆみの場合

『まゆみちゃん、もう一本行ける?』
120分の仕事を終え、送迎車に乗ったせつな。
お疲れさま、でもなく、その言葉を言われたとき、一気に脱力感が襲った。
あれ?今日って仕事何本行ったかしら?
頭の中で指折り数えてみる。
朝の10時からひっきりなしに付き、お昼ご飯すら食べる暇もなく、今の120分で5本目だった。
5人の男性と対峙しているけれど、どうしてだか顔がちっとも思い浮かばない。
同じお店の、ゆりちゃんが、
『お客さんなんてさ、皆じゃがいもに見えるょ。』
と、屈託ない笑顔を向け言ったことを思い出す。
『あ、ええ、行け・・』
そこまで言ったらドライバーのサカイさんが、割り込んできて、
『疲れてるよね?無理ならいいよ。フリーだから』
ミラー越しにあたしを見ながら口にした。
あたしは行けますよ。と最後の言葉まで言い、後部座席のシートに身体を預けた。
無理ならいいよ。そう言われると負けず嫌いのあたしは、他の女の子が行くのならだったらあたしが!と、躍起になってしまう。
風俗嬢になって3年。
25歳という曖昧な年齢だけれど、あたしは風俗の仕事にやりがいを感じている。
サービスをしたあとのお客さんの素の顔。
ありがとうと言う、労いの言葉。
確かに粘膜が接触する仕事だから、心がしっかりとしていないと流されてしまう。
風俗嬢の矜持を持ち丁寧な接客をしていれば、お客さんは再度指名してくれる。
どうせなら指名をされたい。
それは自分次第だし、自分の器用だと思っている。
ナビの時計をちらっと見やると23時を少し回っていた。
お腹が空いて意識を失いそうだった。
『サカイさん』
背中に声をかける。
サカイさんはまっすぐに前を向いてハンドルを握っている。
あたしたち風俗嬢は商品だから大事にしないとね。が、口癖なおうようなサカイさん。
イケメンだったらモテモテだょね〜。なんて、冗談を言ったりする。

『はい。わかりました。ファミマ?ローソン?』
『ポンタ』
『了解』
あたしとサカイさんは、クスクスと笑った。
意思の疎通とかではない。
あたしがサカイさんを呼ぶときは、必ずコンビニ寄って欲しい時なのだから。
何を食べようかな。
おでんがいいかもな。寒いし。
あと、サカイさんにホットコーヒー買ってあげよ。
翌日を跨ぐ平日のこの時間はあまり車は通ってはいない。
時折照らされる街灯の下の道路に目を落としつつ、あたしはカバンからタバコを取り出す。
細く開けた窓から白い煙が立ち上ってゆく。
フー、フー。
お客さんの前だけはタバコは吸わない。仕事だもの。
あたしは求められている。
風俗嬢の仕事は特にそれを感じる。
どの仕事も同じ。必要とされることにおいては、同じ仕事。

『着きましたよ』
『ありがとう。ちょっとだけ待っていて』
車から降りて、コンビニに入る。
おでんの匂いが立ちのぼり、温かい肉まんやあんまんが売っている。
温かいものは寒いこの時期は心も温める。
(お客さんにも飲み物買って行こ)
あたしは買い物をして、表に出る。
吐く息は白く、夜気の空気はひんやりとすんでいて、あたしは目を閉じて目一杯呼吸をした。
『まゆみちゃん、がんばるね!』
『うん。だって。行くしかないっしょ!』
あたしはわりと大きな声を出し、自分を自分で鼓舞した。
to be continued...

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風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。

 
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