エピソード

【17話】リーマンショックによる不況の波が夜の世界を飲み込む

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880万円...。
この数字からこの物語は始まります。
第い1話はこちらからご覧ください。

じわじわと忍び寄る負の連鎖

当時の私を思うと枕営業を仕事の一環としてこなす彼女に、良いとも悪いとも言えなかったのが実情でした。
この仕事が例えば何かの販売員だったりどこかの会社員なら、もっと助けになれたり一緒に知恵を出し合えていたかもしれません。
彼女がこのセクキャバの仕事を辞めたいと言ってきたという事は、私に何かしてほしかったのかもしれないですし、とにかく「苦しい」という事を、誰かに伝えたかったのだと思います。
しかしそこで私が何かを言う事は私自身、無責任になりたくなかったというのが正直な気持ちだったので、それについて意見を言う事は出来ませんでした。
店で働いていた頃は、世間の景気の波がとても激しかったです。
2008年に起こったリーマンショックが、数年後にまで徐々に響いてきていました。
私が働き始めたのはリーマンショック後で、入店直後はまだそんなに直接的には影響を受けている感じではありませんでした。
ゆっくり、ゆっくり、ジワジワと景気が後退していく、まさにその時でした。
そして政権交代した頃、世界的な金融危機と言われていたリーマンショックが、日本のサラリーマンにも直撃。
そして間もなく東日本大震災が起こりました。
恐ろしく続く負の連鎖。
当然サービス業である飲食店全般、夜の世界では水商売も風俗業界も、デフレ現象が巻き起こります。
競合し合っている店舗同士で安売り合戦が始まり、お客様に支払って頂く料金を隣の店よりも、それこそ限界まで下げても客入りが難しくなります。
ちょっとやそっとの声かけでは歩く人にはスルーされ、簡単にはお店に足を止めてくれにくくなりました。
それまで来られている長いお付き合いの指名をしてくださるお客様に限っては、今まで通り程よいスパンで来店して頂けるという事も多かったです。
フリーのお客様に関してはサラリーマンも観光客も、極端に来客数が目減りしていくような状態でした。
その歓楽街全体が、そんなどんよりした空気に包まれていました。

不況は夜の世界にも広がって行く

「暇はあるけど金はない。」
ある日付いたフリーのお客様に聞いた言葉です。
本当にその時代が一時だったとはいえ、その言葉が世間を物語っていました。
東日本大震災の後の5月のゴールデンウィークは、通常ならば5日から7日が平均的な連休でしたがお客さんの中には、「俺、20連休やねんな。一見良さそうやけどな、その代わり、その休んだ分は給料から引かれるねん。やから、来月ほんまに給料ないねんな。やばいで。。」と言う人も・・。
聞いた時は私もびっくりしましたし、焦りました。
そんな方ばかりとは言わないですが、お給料をその分減らされる20連休とやらが当時ニュースで話題になっていたのです。
しかしこんなにも自分の近くで起こっている非常事態に、不況と言う現実を見てしまった気分でした。
その他にも何人ものお客様から、22連休やら25連休やら話を聞きました。
世の中のサラリーマンは遊べるお金が減ってしまうのですから、私にとっても他人ごとではありませんでした。
やはりその恩恵で私にもお給料が入ってきていて、家族を守っていけるのですから、全くの他人でも、他人事では済まされない事態でした。

不況だろうと何だろうと、私はお客さんを呼ばなきゃいけない

そして政権交代してすぐ話題になった「仕分け」が始まっていたので、仕事を無くしたお客様数人と連絡が取れなくなりました。
仕分けも毎日ニュースで報じられてはいましたが、まさかそんなに早くに働いている人たち、経営者、労働者共に直結するとは思いもしませんでした。
主に仕分けで影響を受けたのは、公的な仕事の下請け業者の方だったのですが、それは鉄道関係の業者の方や電気工事屋さん、給食の配給会社の方など様々な職業の方が仕分けがきっかけで姿を見せなくなりました。
店のお客様が減っていくというのは貰えるお給料も減る訳なので、働く女の子達にとっては死活問題ですし、今までとは営業方法を見直さないといけないほどの大問題です。
その頃たまたま閉店後にタクシーに乗る機会があり、運転手さんに聞いた話でも、
「先月はこの界隈全体で、50件が倒産して夜逃げしたらしいですね~。だいだい世間の給料日になる25日ギリギリまで営業して、月末の酒屋の支払いをしないで売り上げごっそり持って逃げるみたいでね、酒屋も大変そうですね~。あ、働いてる女の子も給料を貰えずに、経営者に逃げられたりは多いみたいやね。可哀想にな~。」
夜の飲み屋さんや水商売、風俗業界全体を指して教えてくれていたのだと思います。
忙しい夜は営業が少し伸びてしまったり、同僚と話込んだり、アフターでお客様とのお食事だったり、飲み直しなどで終電が過ぎてしまい電車が無いのでタクシーの需要も高くなります。
それがその頃は金曜日も週末もタクシーのちょうちん行列が並んでいて、空車となっているタクシーだらけの道路になっていました。
それだけでその日の歓楽街全体の景気が分かってしまう程でした。

彼女のことも気になる・・でも自分のことも・・

彼女が話してくれた枕営業は、その遅れてジワジワきたリーマンショックでの不況を彼女が乗り切るための方法の1つだったのは間違いありませんでした。
お店が忙しいときは、ある程度のお売り上げが取れている女の子はのびのび出来ていた部分もありました。
のびのびした気持ちは自分たちの売上によって店が潤う、男性スタッフの機嫌もよくなる、繁盛してる店の主力になっている、という事が分かっていたから。
逆に店が暇だったり、自分の指名のお客様が来られない時、来ていただけない時などは店を暇にしてしまった罪悪感だけが胸の中に渦巻くのです。
そして店内にいる男性スタッフはピリピリを神経を尖らせ、顔つきも段々不機嫌丸出しの顔になってきます。
店に売り上げの貢献をしていた者程、責任を感じてしまう訳なのですが、そこで違った方向での努力をしてしまい、ギリギリのお客様を繋ぎとめるためにドツボにはまり、出れないという事態を招いているようで、それが枕営業です。
お客様が少ない日には、店のスタッフに執拗に当たられたりという事は割とほとんどのキャストが経験していたので、それ位は序の口。
やはりお給料を搾取されるターゲットにならない為には、いくら大不況であってもある程度一定のお客様を確保し成績を維持する必要があったのでした。
お店にとって利益をもたらすキャストでないと、「使えない」という烙印を押されてしまうので、何をされるか分からないというのも正直な気持ちです。
それはキャストの努力で何とかなりそうなものなのですが、実際不況が相手ではどんな売れっ子や、安定した売り上げの取れている子でも太刀打ちできない部分もあります。
太いお客様の会社の倒産や夜逃げ、嘘の様ですが昨日まで豪遊していたお客様が次の日に会社が倒産していた、というような事が起こりました。
彼女と同伴で出勤してきたお客様は、見た感じは普通のサラリーマン風のお客様でした。
いつもの様にニコニコと笑顔で明るい様子で彼女は接客していましたが、私は彼女の話を洗いざらい聞いてしまってる以上、なんだかソワソワしてしまい、彼女をチラチラ見ています。
嫌だと言っていたのを確かに聞いている訳なので、彼女の心を思うと締め付けられる思いでした。
最終的に決めたのは本人ですが、私が働いてる店はそれも含めて全て女の子頼みの体質があり、客の取れないキャストはどんなことをしても、客を呼んで来いという雰囲気は確かにあったのです。

若くして二児の母になった私は風俗の世界に飛び込む決断をしました。夜の世界の「光」と「影」を自身で経験しました。家族を守るため、風俗とともにがむしゃらに駆け抜けた6年間の濃密なコラムが皆様の元気に変わればと思い執筆活動を続けて行きますのでよろしくお願いします♪ Rie♡"

 
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