エピソード

【21話】夜の世界に染まらないために、静かに息を潜めて・・・。

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880万円...。
この数字からこの物語は始まります。
第1話はこちらからご覧ください。

消えた5万円と彼女

決して安くないお金を持って、唯一打ち解けかけた友達もその街から居なくなってしまいました。
その界隈ではお金の持ち逃げは珍しい話ではありません。
しかし割と最近まで親しくしていた事もあり、私の心境は複雑でした。
そうしないと生きて行くのが難しくなる程、追い込まれていたのは確かです。
多かれ少なかれ夜の世界・風俗業界以外の、一般の会社勤めをしていても、雇用側から追い込まれる事はあります。
それにどうやって戦うのか、やり切るのかをどの仕事をしていても働く側は機転をきかし、知恵を絞って回避していかなくてはならないのです。
今回は逃げてしまったという事で、その話は終わってしまいました。
何ともむなしい結果で、少額ですが私の貸した5万円も勿論返ってこないまま・・・。
この一件で、彼女は警察に被害届を出されたら確実に捕まってしまいます。
しかし小さな会社が営業している店舗は、ミイラ取りがミイラになるのを恐れ、今回のくらいの被害であれば泣き寝入りします。
それを彼女も分かって、逃げたのだと思います。

私から見た夜の世界と住人達

私が見た夜の世界、風俗業界は物凄く狭い世界でした。
その世界の狭さとは、もちろんエリアや面積の事ではありません。
働く人達の視野の狭さの事です。
勿論大きな輪の中にいて、視野を広く持って働いてる方もいらっしゃいましたが、ごく僅かでした。
彼氏を店で作るとか、お客さんの愛人になるとか、遊びに行くのは、店の近くのホストクラブとか、元旦那が近所でスカウトマンをしているとか、物凄く小さな世界で回っていました。
夜の営業で昼間は寝ているせいか、ワイドジョーで世間を賑わしているニュースも知らず、消費税が上がるとかの一般的に知るであろうニュースも知らず・・・。
知らなくても大丈夫な雰囲気がありました。
しかし歓楽街のニュース、どこの店に警察の立ち入りが入ったとか、どこの店の店員が逮捕されたとか、そんなゴシップにしかアンテナが張れなくなっていくような人が多かったです。
レギュラーで入っていると休みを取るという事は、他のキャストに指名替えをされるのを覚悟しなくてはならないですし、休みとなると店での居場所が無くなるという怖さがありました。
そして長期休暇もとれないままで、旅行にもいかない。
本当にその場所しか知らない。
そんな隔離された狭い箱の中にいるような環境でした。
搾取はされるとはいえ、通常のバイトより賃金は高額です。
私のように家庭があったり子供がいたら別ですが、自由な身なら海外旅行にも行けるはずですし、海外ではなくとも国内でも十分行動範囲を広げれるはず。
本当にその地域から出ない人が多い事に違和感を感じずにはいられませんでした。
風俗業界に入る前はその世界が怖かったのですが、入って分かった事はその世界に入ってしまったら、外の世界が怖く感じてしまう。
そう思いました。
だから目標の金額の貯金や、借金返済を達成してもずっとそこに居ることになってしまう。
悲しい事ですが、そんな人は珍しくはありませんでした。

20歳の女の子に起こった事件

その狭い世界を象徴する様な事件もありました。
1人の男性がスタッフとして店で働く様になりました。
元々いるスタッフが呼び寄せたような感じだったと思います。
とくに明るい訳でも無く、かといって暗い訳でも無く、見た目は普通の人でした。
その人は女の子達に横柄な態度をとる訳ではなかったので、店にいるスタッフの中では喋りやすかったんです。
キャストが搾取されたり、あの手この手でお金を取られている女の子がいるという事は知らされて居なかったと思います。
裸で酔いつぶれたキャストを割としっかり介抱しているのを見かけたこともありましたし、成績が下にいるランクのキャストにも、丁寧に接していました。
後に聞いたところ、彼は1つ向こうの通りのピンサロでボーイ出身という事でした。
閉店後にそのボーイと喋る機会があり、その時に
「俺な、子供いててな、来年中学やから、金かかるわ~。嫁もスーパーでバイトしてんねんけどな。間に合わへんわ~。」
「そうなんですか、大きいお子さんいてはるんですね~。」
お子さんがいるから真面目に頑張っているんだなと、微笑ましく思っていたのです。
その頃お店には中々頑張っている20歳の女の子がいました。
寮に住んでいて毎日出勤する、重鎮となるキャストです。
売り上げもそこそこ上位をキープし、搾取の金額もまだましだったと思います。
お給料の話を彼女とも少しした事があるのですが、
「貸衣装代で8万引かれてて~、けど時給は大丈夫と思うねん~。」
店の搾取も深刻に考えなくても大丈夫なくらいのお給料を貰っていると言うことです。
その彼女がある日から指名を取らなくなり、化粧も可愛らしいものになり、誰が見ても分かるくらいに様子が変わりました。
営業時間に接客しているのを見なくなりました。
出勤しているのにです。
それは男性スタッフがそうさせているようにも見えました。
理由はすぐに分かりました。

不倫と駆け落ち

入ってきたばかりの中学生になるお子さんがいるボーイと、あっという間に不倫関係になってしまった様でした。
突然二人は出勤しなくなり、駆け落ちしてしまいました。
お子さんがいるにもかかわらず、そんなパット出会った女の子にまた狭い世界で惑わされてしまうという。
何とも後味が悪い事になってしまいました。
後にその歓楽街界隈で男性スタッフを見かけましたが、また似たような店の呼び込みの仕事をしていたのです。
聞いた話によると、駆け落ちしてすぐに彼女の熱は冷め、すぐに別れたらしく、一方男性は中学生になろうとしている子供と、奥さんを捨ててまで彼女と駆け落ちする決心をしたのにも関わらず、彼女に振られてから間もなく、奥さんと子供の居る家に舞い戻ったと聞きました。
駆け落ちとはいえ、連絡なく休んでいるという事で無断欠勤になるので、彼女の分の罰金までその男性が被る事になったらしいです。
また近くの店で建て替えてもらっていると、そんな噂も聞きました。
全部のストーリーがその界隈で繰り広げられ、完結し、登場人物もその箱の中ので足りてしまうという感じです。
傍観しているだけでしたが、私はその世界にどうしても染まりたくなくて、当時は随分もがいていました。

自分は夜の嵐に巻き込まれないように・・・

最初は生きる為に、家族を生かすために私もその世界に入ったのですが、債務整理をし普通の暮らしをする為に働くという、少しずつですが階段を上がっていけてる気分でいたのです。
身の回りで色んな事件があると全てが片付けれた時、スムーズにその世界から出れる事が出来るのかと言う不安もありました。
主人も私がそこで働いているので、外の世界から私を心配していたと思います。
ただ家族の為に、何としても風俗業界の怖い部分に触れないよう、怖い部分に関係無いポジションに居たいとビクビクしていました。
しかしそこでお給料を貰っている以上、しっかり仕事はしなくてはいけないので、息を殺すように黙々と仕事をこなしていたと思います。
そして長男の小学校の入学式の1月前のお給料日、まさかの事が起きました。
お給料は営業後、スタッフから手渡しです。
順番に呼ばれて貰います。
私が働いていたお店は搾取もされるのは当たり前でしたが、前にもお話しましたように、お給料からいくら搾取されるかが、重要なポイントでした。

若くして二児の母になった私は風俗の世界に飛び込む決断をしました。夜の世界の「光」と「影」を自身で経験しました。家族を守るため、風俗とともにがむしゃらに駆け抜けた6年間の濃密なコラムが皆様の元気に変わればと思い執筆活動を続けて行きますのでよろしくお願いします♪ Rie♡"

 
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