風俗で働く女の子の物語。
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感?
今回は23人目のあたし。なつき。
1人目はこちらからご覧ください。
なつきの場合
『エビリファイ』『クアゼパム』『ソラナックス』『パキシル』『メイラックス』『レンドルミン』……。
てゆうかさ、殺すきじゃね?なんなの?ラムネじゃあるまいし。は?あたしモルモットじゃないし。ジェネリックをオススメ?はぁ〜?
あたしはかな〜りの精神疾患者で、心療内科に通院をしている、箱の中のメンタルかなり弱めなヘルス嬢だ。
24歳の蠍座。明白に『メンヘラ』だ。
好きでメンヘラになった訳ではない。箱ヘルスにいるからでもない
事実……。
理由がわからないのだ。なぜにこうなったのか。が。
病院に行くたびに、ひっそりと薬の量が増え続ける。
朝昼晩飲むものもあれば夕食後だけのものとか、寝る前のやつとか。
空腹は避けてくださいねのやつだといつ飲んでいいのか迷ってしまう。
なにせいつも空腹だからだ。食欲がないのだ。全く。性欲と食欲は反比例するのだろか。
性欲はある。
よく森田さんに『お前は歩く性器か!』と叱責される。
主体の病気は『パニック障害』だった。発症は20歳の時だ。
それも接客中に。とか死ね。泡を吹いたし。
「あー、そんなに気持ち良かったの?」と、不細工なお客に顔を覗かれさらに泡を吹いた。
それでも借金を抱えているあたしは、なんとしてでも働かないとならない。
「お!なつきちゃん、今日は顔色いいね」
常連の佐々木(仮名)さんがあたしの乳首を舐めながら、目線だけで顔を見上げる。
佐々木さんは多分、森田さんと同い年くらいだと思う。奥さんも可愛い盛りのお子さんだっている。真面目に死ね。
「あはは、そうですかぁ?薬が変わったんですよ。それでかな。よく寝れるし」
精神疾患者とか病気の詳細は言ってない。
なんとなく頭の病気とかゆってある。確かに偏差値は40くらいだけれど。
「元気なのが1番だよ。ね〜!俺はさ、なつきちゃんの元気のエキスを吸って生きているんだから〜」
「やだぁ。大げさだよ。もう!」
頬を膨らませ怒って見たけれど、ん?もしかして、もしかすると、お客さんにやる気エキスを吸われているからなのか?とも思ってしまう。
佐々木さんは素股ですんなりとイキ、終わったあと必ずコップに入った100キンで買ってきた安物の烏龍茶を一気に飲み干す。
すっかりほこりの浮いた烏龍茶を。残滓を吐き出したあとの汚い烏龍茶。ひどく滑稽でひどく残酷だと思う。
仕事が終わり(あたしは早番 10時から5時)お疲れ様です〜、と言下にいいきり、即座に森田さんにLINEをする。
【あいたいよ。今夜寄れる?顔・顔・顔】
ニッコリマークの顔文字をしつこいほど引っ付けて。
夕方の慌ただしい喧騒は決して嫌いではない。
あたしだけが稼働をしていないとあえて思えるから。
なかなか既読にならないLINEの画面を見つめ、道路にため息を吐き出す。少しだけめまいがする中、あたしはその場にしゃがみ込む。
(あ、と、頓服をのまないと。まずいかも)
心臓がバクバクする。
し、死ぬぅ。呼吸がうまくできない。LINEも既読にならない。
震える手でカバンの中を漁り、ソラナックスを取り出しペットボトルのCCレモンで2錠を一気に飲み込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
立っても座っても居られなくて、人影のない道路脇に寝そべった。とにかく心臓がめまいが視界が歪む。
《ブーブ》
スマホが振動をし、さらに震える手で握りしめ、すばやく画面に目を落とす。
【悪い。子どもが熱だして、今から嫁さんと医者にいく。また連絡するよ】
悪い。最初の文字を読んですぐに、スマホを放り投げた。
「くそっ、死ねばいいのに。くそっ!」
あたしは多分おそろしく泣いている。
薬が徐々に効いてくる朦朧とした意識の中、わんわんと子どものよう声を大にしてダムが決壊したよう泣きじゃくった。
寂しいわけじゃない。あたしはただ死にたいだけ。
けれど、死になくない。だってまだ借金が残っているし。恋愛だってしたいから。普通の。
カバンの中から財布やらティッシュやらピルケースがおもしろいほど飛び出している。
ピルケースの中身も開いてしまい、薬が飛び出ている。
(だいだい色、しろ色、そら色、だいだい色、しろ色、そら色に……)
誰か助けて。
あたしは色とりどりの薬を見つめながら誰にでもなく手を伸ばす。
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※人は誰でも悩み、苦しみ、存在する。自己顕示欲が強いことはいいことだけれど、身体の力を抜くこともときには大事。
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