【はのんの場合 16】顔を上げて歩くこと




風俗で働く女の子の物語。

あなたは彼女たちを批判する?

それとも共感?

今回は16人目のあたし。はのん。

1人目はこちらからご覧ください。

はのんの場合

「あ、はい、わかりました。どうも、あ、こちらこそありがとうございます。」

1週間前に面接に行ったコンビニからの不採用の電話だった。

この1ヶ月の間でコンビニ2件。

スーパーの惣菜屋とホテルのリネンのバイトの面接に行ったが、全て不採用だった。

今の電話が最後の望みだった、とはいえない。だってわかっていたのだから。

「どうしよう……」

誰にでもなく呟く。

田舎から親の反対を押し切って東京に出てきた。19歳のあたし。

東京ならこんなあたしを救ってくれるという一抹の期待を胸に、おじいちゃんの形見にもらっボストンバック1つで上京をした。

けれど、現実は甘くなかった。

なにせあたしは太っている。154センチで85キロだ。

いや、もしかしたら東京に来てから5キロくらいは増量したかもしれない。

珍しい食べものもたくさんあるし、何を見ても新鮮で目新しい。

東京は麻薬のようにあたしを誘惑をした。

どうしてバイトをことごとく断られるのか、理由がだんだんとわかってきた。

東京はコンビニをはじめ飲食店などの間口が狭いのだ。

太ったあたしなどがシフトに入ったらひどく邪魔になってしまう。

店長が眉間にしわを寄せるのはあたりまえだ。

細身でキビキビとした動きの早い人材が欲しいに決まっているのだ。

参ったなぁ。

仕送りは20歳になるタイミングで止められることになっている。

後1ヶ月もしたらあたしは20歳になる。

「ふうぞくかぁ。ん〜」

最後のとりでだと思い風俗求人サイトを観覧をした。

太っているけれど顔はまあ可愛い方だと思うし、なにせまだ19歳。

需要はあるかと思いつつソフト系風俗店を何件かピックアップしてみた。

【ぽっちゃりさん大歓迎!!体験入店いつでもOK!】

【80キロ以上の子だけしか雇いません!容姿に自信がある子まってますー!】

【あなたを大きな胸でお店を盛り上げましょう!】

まるであたしに向けられている求人文句に目が点になった。

太っていても風俗嬢が出来るんだ。

むしろ太っている子でないとダメなお店もある。

ふむう。あたしは太い腕を組んでネット前でポテチを齧りながら考えた。

「待ってましたよぅ」

あたしは結局【ぽっちゃりマンゴー女学院】なんてゆうふざけたネーミングのギャルぽちゃ店に電話をし、その日中に面接になり、今事務所に座っている。

椅子をギシギシと軋ませて。

「お願いし、ますぅ」

店長さんだろうか?女性で年齢はまだ30代の前半くらいに見える。

そうしてあたしと同じでとても体格がよろしい。とゆうかデブだ。あたしもだけれど。

「えっと、あ、お名前聞いていいかしら?」

「木村葉音です」

「わ!ハノン?まあ、キラキラネームじゃないの!もう、あなた源氏名は『ハノンちゃん』に決まりね」

えええ!もうすっかり働くことになっているし、名前まで命名されてしまった。

ええ!あたしは声をあげたくなっていた。風俗嬢の仕事などしたこともないし未知の世界だ。

「あのぅ。あたし、風俗はじめてなんですよぅ」

浮かれている太った店長さんに小声で囁く。

「あらそうなの?いいのよ。ここに来る子はね、若いからほとんどが未経験なの。でも手でサービスをするだけだし、あなたのその若くて豊満なおっぱいを触らせるだけなの。あなたの胸をお客さんは待っているのよ!ハノンちゃん。ね!わかるぅ!」

「あ、はぁ」

力説をする店長さんの後ろの扉の向こうから、キャッキャッと楽しげな声音が耳の中に響いてくる。その声はまるで高校生の頃を思い出す懐かしい声だった。

「明日から出勤出来るかしら?」

講習っぽいことをするから少し早めに来てね〜と、付け足して。

「あ、はい!」

あたしは高揚をしつつ溌剌と返事をかえした。

風俗で働くことだけは本当は避けていた。どこかで偏見を持っていたから。

田舎から出ていく子は大体風俗嬢を内緒でしている。友達のゆうこもその口だ。

「葉音だけはきっと風俗はしないだろうなぁ」

ゆうこの助言はすっかりと外れたわけ。

けれどいいのだ。あたしが決めた。あたしを必要としてくれる仕事にやっと巡り合った。

太っていることが昔からコンプレクスだった。

痩せることで世界が変わると思ってダイエットもしてみたが、やや痩せたところでもなにも変わらない。

だったらこの太った身体で勝負をしたい。この身体と若さとやる気でお金を稼ぐのだ。

「よし!」

あたしは顔をもたげ、まっすぐに目線を上げる。

その先には太った店長さんのお腹しか見えないが、その先のもっと先にあたしの輝かしい未来が見える気がしてならない。

(わ、お菓子、え?きのこの山の新作?てゆうか、箱買い?コーラーの桜味じゃないあれ?)

棚には売るほどのお菓子が雑多に置いてある。

その棚の下にラベルが貼ってあって、値段が書いてある。

(なんだ。あれ、売ってんのか)

あたしは、クツクツと肩をふるわせながら笑う。

明日の洋服、帰りに買いに行こうかな。

時計を見たら、夕方の4時ちょっとすぎ。

きっとおもてはまだとても明るい。夕刻の春の匂いはとてもここちがいいことだけはわかっている。

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※太っていても、痩せていても、風俗のお仕事はやる気と気力。

ハノンちゃんのよう前向きに頑張る女の子を応援してます。

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藤村 綾

風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。