【れいなの場合 17】監獄のおひめさま




風俗で働く女の子の物語。

あなたは彼女たちを批判する?

それとも共感?

今回は17人目のあたし。れいな。

1人目はこちらからご覧ください。

れいなの場合

「あ、れいなちゃんのキャミかわいい〜!どこで買ったの?」

へへへ。あたしは薄く笑って、通販なんだよね〜。と、付け足す。

確かに今回慎重した戦闘服とゆうなのキャミソールは気に入りで、始まりだした春っぽさなどをすっかり越えた夏志向のエメラルドグリーンを基調としたなんちゃってシルク素材の一品だ。

「きっと、モモなら似合わない色だよぅ〜れいなちゃんは青が似合うもん。だってさ、色が白いから〜」

「そうかな。モモちゃんも似合いそうだよ。冷色系。通販サイトさ、あとで一緒に見て見よっか?」

モモちゃんは、うん、うん、と2回頷いてから、あたしのキャミソールを触った。

確かにあたしはひどく色が白い。白いのを通りこして青白い。

が、しかし南国育ちだ。中肉中背の凡庸な顔をしたそこらにいる女子系。

あたしは今年25歳になる。モモちゃんはまだ20歳だっけ。この年代の5歳差は色々とキッツ〜と叫びたくなる。

モモちゃんもそこらへんにいる20歳女子系。

けれど、今もなお日サロに通っていて、冬でも肌の色がこんがりトースト色だった。

モモちゃんいわく、『あのね、色黒だとね、痩せて見えるらしいのよっ』だそうで、常に焼いている。

その実。モモちゃんはわりとぽちゃぽちゃだけれど、あながち黒い肌だと締まって見えるのは嘘ではないようにも思う。

《ブーブー》

部屋の電話が鳴った。あたしは立ち上がって受話器を取る。

『はい』

『あ、れいな?そこにモモいるだろ?下おろして。お客きたから』

どうやらモモちゃんの仕事が入ったようだ。あたしはモモちゃんの方に視線をうつし、指で下、下と合図をする。

モモちゃんはわかったような顔をし、あたしのお尻をペロンと撫でて部屋を出て行った。

『いま、下ろしましたよ』

『了解』

がちゃん、と電話の音がして内線通話が切れる。

あたしは、狭い部屋のスプリングのきいてないベッドの上にコロンと寝そべった。

この部屋があたしの仕事場だ。

3畳程しかない部屋に簡易シャワーと(湯船はない)ベッドと小さいテレビ。

たくさんのバスタオルがおける棚。小さなガラスのテーブルに、お客さんの脱いだ洋服を入れる脱衣かご。

ファブリーズは欠かせないアイテムで、カビ臭い部屋は常に嘘の匂いに覆いかぶされている。

窓もないピンクの小部屋は言い方を変えたら【監獄】だ。

まあ、壁の色がピンクだけれど、灰色だったら即物すぎて凹んでしまう。

《ブーブー》

また電話が鳴る。今度はあたしにお客さんがついたんだとわかって、受話器を取り、おります〜。とだけいって、受話器を置いた。

フロントにいる赤井くんもわかっているので何もいわない。

「お願いします〜」フロントに声をかける。

対面のカーテンの前の横にある鏡で一応髪の毛を整え、ニンマリと笑顔の確認をしてみる。

お化粧よし。髪型よし。笑顔よ、んぅ。あまりよしではないが、まあよし。

フロントに通ずる棚に何コースかが書いてある紙が置いてあり、その隣に紙コップに入れたお茶も置いてある。

検尿カップのようなのでガラスのコップにしてよ!と、何度も打診をしたが未だにその夢は叶ってない。

はぁ。40分コースのフリー客。あたしは、いざ、カーテンを開けた。

「れいなでーす」

頭を下げて顔をもたげると、そこにいたのはあたしと同年代の作業着を着た兄ちゃんだった。

「ど、どうも、」

兄ちゃんはあたしを見て、少しだけ目を細めた。

「えっと、プレイルームは2階なので先に階段を上がってください。真ん中の2号室です」

兄ちゃんが靴を脱いだタイミングでプレイルームに促す。

兄ちゃんの履いてきた靴を下駄箱にしまおうと持ったら、とても重たかった。

軽そうに見えるけれど、安全靴で足を守るために履くんだよ。あとで兄ちゃんからの説明があった。

「お願いしますね」

「あ、はい。れいなさん本当に綺麗ですね〜。わわ、本物だぁ」

本物だぁ?あたしの偽物がいるのだろうか。あたしは首をかしげた。

「まあ、お世辞でも嬉しいっ」

兄ちゃんは、あはは。と、苦笑気味に笑った。綺麗といわれることは常套句かもしれないが、いわれて嫌な気などまったくしない。

魔法の言葉。女はいつも『綺麗』という言葉を待っている。

「肌が本当に綺麗。そんな肌の人見たことないっす」

「あ、肌が綺麗ってことなのね。あはは」

「ち、違いますよ!全体的に総まとめで綺麗ってことですよ!」

そんなに焦ることではないのに、兄ちゃんはとても焦っていた。

「でも、本物ってなあに?あたし初見だよね?あたし、あなたを知らないわ」

よく見るととても整った精悍な顔立ちでモテそうなタイプだし、ヘルスになんて来そうにないタイプだ。

兄ちゃんは、実はね、と、真面目に話をしだした。

「すぐそこの角の信号にコンビニが立つでしょ?ローソン。わかるよね?」あたしは、ええ、と、うなずく。

だって、あたしはそこの前を通ってこのファッションヘルスビルに通っている。それも歩きで。

「俺、そこの現場監督なんですよ。だから毎日れいなさんを見て、職人達とウワサしていたんですよ。どこの人だろうって。色が白くて異国の人みたいで目立つから。で、この前内装屋がれいなさんのあとをつけてこのお店で働いていることを知ったんです。」

あ、そいつれいなさん、相手したはずですよ〜。と、軽い口調で付け足す。

そういえば、最近やけに作業着の兄ちゃんやおじさんが新規でつくと思っていた。あ〜あ、なんだか納得。

「ふーん。そうなんだね。まあ、ストーカー行為だけれど、売上に貢献してくれたので許す。」

あたしは偉そうな口調で兄ちゃんを見つめた。

「狭いっすね」

兄ちゃんは部屋をくるっと見渡しなんの脈絡もなく口にした。

狭くてもいいのよ。することはひとつじゃないの。

そうやって言おうとしたが、なんだかそこにいるあたしが惨めになりそうだったのでやめた。

「監獄のお姫様ってドラマやってましたよね?クドカンの」

「ええ。見てないけど。それが?なあに?」

先に仕事に入った1号室のモモちゃんが終わったようで「やだぁ。また来てよ。もう、すけべ〜」なんておもねた声が耳に届く。一気に部屋が静かになる。

「ヘルスのお姫様だね。れいなさんは」

くぅ〜。俺クッサイ台詞ゆってんなぁ。へへへ。兄ちゃんはとてもヘラヘラと笑う。

あたしはなので兄ちゃんにこう言いかえす。

「お姫様なら、きっと王子様が来てくれるはずよね。まだ現れないけど?」

「お!それは違いますね」

兄ちゃんはあながち否定をした。全く洋服を脱ぐ気配がない。延長したろかなぁ。

「目の前にいるじゃないですか!現場監督の王子様が!」

「わー嬉しい」

冗談でもちっとも嬉しくないときもある。

けれど、嬉しいふりをしたり、お姫様になったりするのも仕事だと思う。

「それよりも時間が。もう10分もたってますよ」

「あああ、俺のあそこはずっと勃ってるけれどね」

「あ、はあ、」

兄ちゃんは冗談はとても寒かったが、プレイはさらっとしていた。

本当に好きになりそうな気がしないでもなかったが、そんな場面など今まで腐るほどある。

「れいなさん、俺は絶対にここから連れ出すからね」

兄ちゃんは最後にあたしを抱きしめ耳もとでそうささやいた。

「おひめさまかぁ」

狭い部屋にいて、お客さんを待つ。

けれど、待っているのはお客さんではなく、王子様かもしれない。

あたしは、終わったあとの部屋の片付けをして、換気扇の下でタバコを咥える。

「フーッ」

吐き出す白い煙りが換気扇の中に吸い込まれてゆく。そしてあたしは男性の白い液体を吸い出す。

あたしはこの部屋が好きだ。監獄でもなんでもいい。だって好きなのだから。ここが。あたしの居場所。

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※箱ヘルのお話です。店舗型ヘルスはデリヘルよりも安心して働けます。初心者の女の子はまず、ソフトな店舗型に行くのを勧めますよ〜。

綾は店舗に5年いました。

怖かったことは1度もありません。

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藤村 綾

風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。