エピソード

【アンナ場合 24】福よか福よか福よか

風俗で働く女の子の物語。
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感?
今回は24人目のあたし。アンナ。
1人目はこちらからご覧ください。

アンナの場合

「アンナ仕事行ける準備してー」
スタッフの大森さんが、スティックパンを齧りながら事務所から顔をひょいと出す。
あたしをすぐさま見つけ、声をかけた。
スティックパンはあたしの気に入りだ。大森さんに勧めたのもあたし。
ちなみにあたしはチョコチップの入ったものが好き。
「は〜い」
よいしょ。という単語を吐きながら机の上に手をかけて立ち上がる。
やだぁ〜、アンナちゃんさ、また肥えた?
隣にいるマルミちゃんの太い声がし、あんたもあたしと同様、肥えてるけれどね。
という当たり前な台詞はさておき、ニヤリとしたり顔をしながら、5Lサイズの黒いコートを羽織って玄関先に移動した。
靴が雑多に置いてある。どれもこれも25センチ以下の靴は見つからない。
あたしだって、26.5センチだ。
別に浮腫んでいるわけではない。
この巨漢を支える丈夫な脚は大きくなくてはダメなのだ。
180センチ、140キロ。
かなりのボリュームだ。
23歳という若さと、肌がいやに綺麗なだけが売りのデブ専門店のデリヘル嬢だ。
最近油断をしていたのか、また太った気がする。
マルミちゃんに言われたぐらいだ。
もともと太っていても言葉にされると一応女子なので律儀に傷つく。
子どものとき、いや、赤ちゃんのときから太っていた。
太っているが故、登校拒否気味になり中学もろくに行かないまま、大人になってしまった。
21歳まで引きこもりで外気の目がひどく怖かった。

そのころ母親が病死し、介護を要する父親と2人きりになり、一応健康なあたしがいるせいでもあり、生活保護をもらうのは難しいと言われてしまった。
引きこもりは基本病気ではない。身体だけは丈夫なのだ。
ただ、外に出たくなく逃げているだけなのだ。
あたしは意を決し、父親のためにも社会復帰を決めた。
ネットでお仕事検索をすれば、それはそれは山のようにたくさんの情報が出てきた。
けれど、ふと鏡に映る自分を見たせつな、現実から目を背けた。
長年の引きこもりの蓄積により、肉があちこちにつきすぎたのだ。
求人の詳細に『太った人は不可』などとは書いてはないのだけれど、1番最初面接に行ったコンビニの面接菅になんの脈絡もなく、『太っているからねぇ』と、憐れみの眼差しを向けられぼそりと言われた。
『コンビニは接客業だから』と、非難なく付け足された。
太っている理由かは定かではないが、他にも面接に行った。
スーパーのレジ・ガソリンスタンド・弁当屋。
が、見事に全てが否という結果だった。
まず、この醜い醜態をどうにかしないと生きてくことができないのか。と、悟った。
父親にもお金がかかる。些細な貯金も底がつきそうだ。
このまま死んでいくしかないのか、と、ぼんやりと脳裏を掠めた。
今から痩せるにも時間はかかる。
食べていなくてもなかなか痩せないのは、幼いころからの元来の脂肪の数量だと、ネットに書いてあった。
痩せたい、けれど、時間がない。
泣きながら、マウスを握りしめ、呆然とクリックをしていた。

【ぽっちゃりでも稼げます。いや、むしろ、太ってないかたはお断りいたします】
どこかを彷徨っていたのかわからない。
けれど、どうやら風俗の求人サイトに場面は変わっていた。
え!
思わず声が出た。あたしはすがるような気持ちで【ぽっちゃりデリヘル】に目をやった。
知らなかった。風俗という単語は知っていたが、風俗という業種は、綺麗で若くてスタイルのいい女しかできないと思っていたからだ。
都内だけでも至極たくさんのぽっちゃり店があった。
あたしは目についた比較的しっかりしていそうな、お店に電話をした。
直ぐ面接をし、大歓迎された。
今までどこに行っても歓迎などされなかったあたしが、これほどまでに歓迎されるなどとは思ってもいなかった。
あたしの人生は風俗によって救われたのだ。
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「こんにちは、アンナでーす」
渋谷のホテルはどこも狭く、ここのホテルは特に間口がせまい。
「アンナちゃん待ってた!」
「え?っと、確かぁ……」
見たことのある顔だった。
「あ、この前指名した、奴。俺、俺!」
って、俺、俺詐欺じゃねーか、茶目っ気たっぷりにそう付け足す。
「アンナちゃんさ、巨漢すぎて、ここのホテルの浴槽にすっぽりとはまっただろ?あれがもう、ツボでさ。また、会いたくてよんじゃったんだ」
「ああ、そうでした、そうでした」
あたしは、肩をすくめる。
横顔が可愛いとか言われ、あたしの顔を何度も撫ぜてくれたお客さんだった。
『デブ専なんだよ』と、きっぱりと言い放ち、さらっと遊んでいった。
「今日もお風呂にはまりましょうか?なんて?」
あたしは自虐キャラと、太い太ももで顧客を掴んでいる。
太ってても歓迎され、喜んでもらえる仕事が他にあるだろうか?
「山村さん、でしたよね、記憶が正しければ」
脳内のお客さん情報を遡り手探りで探す。
お客さんは、頷き、あったリー! と、あたしを抱きしめた。<
「あたったから、これ、あげる」
山村さんから差し出されてのは、スーパーの袋に満タンに入ったスティックパンだった。
「わー!大好きって憶えてたんだ! あ、チョコチップ味もあるんだぁ!」
あたしは、これでもかという笑顔をこしらえ、ケラケラと高笑いをした。
お客さんは、目を細め嬉しそうなあたしを、僥倖の眼差しで見ている。
「じゃあ、早速シャワーに、ね!」
あたしは、風俗という仕事が大好きだ。
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※「あ、俺、ほんとうはねふっくらしたこが好きなんだよ」そうゆうお客さんっって結構いるの。男性は自分にないやわらかい身体に憧れを抱くものなのです。

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風俗嬢歴20年の風俗嬢・風俗ライター。現在はデリヘル店に勤務。【ミリオン出版・俺の旅】内にて『ピンクの小部屋』コラム連載。趣味は読書。愛知県在住。

 
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