風俗で働く女の子の物語。
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感?
今回は8人目のあたし。あや。
1人目はこちらからご覧ください。
あやの場合
「こんにちわ〜」
新規のお客さんにネット指名をされた。
あたしはいつもの地味目なお化粧とシックな服装という出で立ちで、部屋で待つお客さんのもとに行く。
着飾ることが得意ではない。
目の前にあらわれたお客さんは30代前半だろうか。見るからに普通のサラリーマンだった。
付け足すと顔も良くって体躯も好み。
こうゆう男性ってマグロが多いんだよなぁ。
なんて思いつつもさわやかな笑顔を見せ、よろしく、とお客さんが座っている白い革のソファーに座った。
「わっ!」
ソファーは見た目に反してとってもふかふかであたしはソファーに埋もれた。
あはは、頬を朱に染めながら屈託なく笑う。
「ははは!あやちゃんもそうなったねぇ。俺も同じ、かなり沈んだよ」
タカナシと名乗ったお客さんは大げさにその旨を告げた。
「タカナシさんって、本名ですか?」
だいたいお客さんは偽名を使う。
多いのは『タナカ』『ヤマダ』『スズキ』けれど、『タカナシ』だけはどうしても偽名に思えなかった。
タカナシさんは、首を横にふって、本名だよ。なんで?みたいな顔をする。
「あ、そうなんだ。素敵な苗字ですね。珍しいです」
「そうかなぁ」
素直で嘘をつけないタイプだと瞬時に察知した。
どうしてあたしを指名したの?問うたら
「あやちゃんさ、黒髪だし見た目が地味そうだったから。俺派手なのとか、装飾系とか全くダメなんだよね」
タカナシさんは矢継ぎ早に口にした。
言葉の速度が少しだけ饒舌になったのは、風俗嬢はそうゆう子が多いと決め込んだ口調だった。
(地味目な子)
確かにあたしは見た目は黒髪だし派手でもなくどちらかとゆえば地味な方だ。
お喋りでもないしお喋りが下手だ。
顔立ちも決して良いとはゆえない。それでも風俗嬢をしているのはこの仕事が好きだからだ。
男性の奥深い性の搾取。心に秘められた闇。
そうゆう日陰の部分を探れるのは風俗嬢ならではだと思っている。
「タカナシさん、」
シャワーにと、席を立ったと同時に声をかける。
「なん?」
とても無垢な顔をしている。なにも知らない無垢な顔。
「浴室ね、電気をけしてもいいですか?」
「なんで?あやちゃんが見えないよ」
「お願い……」
先に浴室に入っていったタカナシさんのあとに続き、電気の消えた浴室に裸で入っていった。
いくら電気を消しても真っ暗にはならない。そんなことはかいもくわかっている。最低限のあがき。
「あ、えっ?」
タカナシさんはあたしの裸を見て、少しだけ声をあげる。
そうしてなにも言わず訊かずして、あたしは下半身をソープで洗い出す。
「わ、綺麗だね。隠さなくてもいいよ。わかってた。胸のあたりにちらっと見えてたからさ」
「ご、ごめんなさい」
あたしの背中と腕、胸、お尻には和柄の刺青が描いてある。今まで何十、いや、何百人に、
「わ!凄い、刺青だね。それホンモノ?」とか、
「もしかして、こっちの世界の人?」とか。好奇な目を向けられた。
タカナシさんのような真面目そうなお客さんにあたったとき、刺青がダメで下半身が全く役に立たなくなったことなど何度でもある。
身体に住み着く刺青は18歳のときにいれた。
後悔などはない。けれど、裸になる仕事をする上で、刺青はよい印象など与えない。
「そんな顔をしてこの刺青。ギャップが凄いね。人間は見た目ではないとつくづく思ったよ。あやちゃんの人生だしね。俺はなにも言わない」
優しい言葉が胸に沁みた。
あたしはきちんと勃った男性器を咥えて風俗嬢の仕事を全うした。
行為の気怠いあと、タカナシさんがあたしの背中を撫でてゆく。ゾクゾクする。あっ、声がもれた。
「へー。はじめて触ったけど、墨って滑らかなんだね。肌の中に入ってるんだぁ」
とても興味深く触り、撫ぜ、凝視をしている。
横向きになっている視線の先に、まあるい、電球が光っていた。
それが薄暗い部屋にぼんやりと浮かびあがり、月にも見えるし、太陽にも見えるけれど、実際今何時なのか、表は明るいのか暗いのか、ラブホテルにいると時間の感覚がなくなって部屋に溶けてゆく。
「今度さ、指名するよ」
耳もとで声がする。あたしはおうような声の中ですっかり目をとじた。
※わたしは身体に刺青が広範囲に入っています。刺青が苦手なお客さんもいて嫌な思いをしたこともあります。それでも長年風俗嬢が出来たのは、きっと、見た目ではないと思っている。見た目よりも愛嬌。
風俗嬢は愛嬌と愛情を振りまく存在でないといけないと思ってます。
私の中で生きる刺青は永遠であって私のパートナー。それでも身体を愛しています。
to be continued…
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