エピソード

【13話】予感は的中。家族のために・・後悔と苦痛の10日間。

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800万円...。
この数字からこの物語は始まります。
第1話はこちらからご覧ください。

予感的中

三人目の子供を授かることは憧れでした。
末っ子になる赤ちゃんは女の子がいいな、とか名前はどんなのが良いかなとか、これでもかと言うほどちやほやして育てたいとか、色んな夢がありました。
三人目となると、既に両手を塞がれた状態で赤ちゃんを抱っこする事になるので、それは大変な子育てだと私の母親から聞いていました。
私の中でそれでやっと母親、1人前の母親だと変な思い込みもあり、3人目に対する気持ちは強く心に根付いています。
ただ現実問題、私がセクキャバの仕事を辞めるなんて事は家族との生活、未来を放棄するのと同じことです。
債務整理の手数料も税金も順序よく支払えていましたし、家族の未来に向けて家族の協力や我慢のおかげでやっとここまで来れたんだと、そういう気持ちでもありました。
そんな事を考えながら自宅のトイレで検査。
3分待つ間もなく陽性の反応でした。
3人目を授かっていたのです。
分かっていたとはいえ一瞬時間も止まり、家族のこと債務整理の手数料のこと、滞れない税金や公共料金のこと、物凄い勢いで頭の中を駆け巡ります。
主人に言うのは後回しで、自宅にいる2人の子供を抱きしめました。
ごめんね…子供二人にもお腹に授かった赤ちゃんにも主人にも、心の中で思い切り謝りました。

謝罪と決断

どうしても今の状態で出産できるとは思えなかったのです。
出産を選んでしまえば、今いる我が子2人が育たないと思いました。
主人も社会に戻してあげれないと思いました。
私が決意し歩いてきた道が、意味の無いものになってしまう。
妊娠して困ったのはこの時が初めてでした。
同時に、2人の子供の妊娠が発覚した時と同じ様に喜んであげれないお腹の子供に、申し訳ないでは言い表せない心の底からの謝罪の気持ち湧き上がりました。
諦めるしかない、これが私の結論。
一人目の妊娠発覚した時は主人は会社にいて、職場に私が電話し、一人目という事もあり、電話口で主人は嬉しさの余り声を震わせて泣いていました。
二人目の時の妊娠発覚は、自宅トイレで検査をしている私をトイレの外で主人は待っていました。
同じ妊娠でも、同じ夫婦でも、状況が違えばこんなにも違う。
本当に悲しかったです。
そんな事があってもセクキャバに出勤しなくてはならず、嫌で嫌で仕方ないのと、悲しいのとで、どんな風に接客していたかなんて覚えていません。
しっかり覚えてるのは、その日体を触られるのが鳥肌が立つくらい苦痛だった事です。
クレームになってしまうので限界まで我慢し、トイレに逃げ込むの繰り返しでした。
諦めなければならない我が子がお腹に入っている状態で、セクキャバの仕事をするのは頭がどうにかなってしまいそうでした。

10万円の重みと軽さ

自宅に帰り主人とは少しだけ話をしました。
沢山喋らなくても考えてることは分かります。
そして同じ気持ちでいることも分かっていました。
翌日数件の産婦人科に問い合わせのを電話しました。
二人の子供がいるので産婦人科自体に怖さやら、抵抗はありません。
しかし今回は堕胎する。諦める。
それを前提に受診する気持ちなので、2人の子供を出産した産婦人科ではなく初めて行く知らない産婦人科を選ぼうと思っていました。
病院選びですら、現実にいる二人の子供と違いました。
自宅で簡単にした検査だしもしかしたら間違えてるかもしれない。
出来てないかもしれない。
そんな薄っぺらい希望を持ちながらの受診しました。
「7週入ったくらいかな。」
産婦人科の先生の声で現実に引き戻され、横にあるモニターで超音波で映し出される小さな心臓が動いてました。
その時は悲しみを通り越して無の状態だったと思います。
先生は出産をするものと思っていたのでしょう。
「3人目なら楽やと思うよ。正常に妊娠できています。」
そう、優し気な笑顔で言ってくださったのです。
「違うんです。今回は諦めようって、主人と話をしております。」
それでも先生は優しい顔を崩す事もなく頷いてくれました。
その時の優しい表情に随分私は救われました。
「それでは、受付で日程の段取りをして、説明を受けて帰ってくださいね。」
受診から約10日後に手術の日を決め、費用や前日受診の話を聞きました。
費用は10万円程。
そして手術前日に受診し子宮の入り口に詰め物をして、前もって子宮の入り口が開きやすいようにしますとの話をしてくれました。
10万円で妊娠がなかった事になるのは複雑な気持ちでした。
今の時代子供1人を1人前に育てるのに、2000万円はかかると言われてます。
それが10万円で居なかった事にする。
しかも数時間の間で消してしまう。
二人の子供の時の様に喜んであげれない、お金もかけてあげれない、情けなさでいっぱいで母として、人間として物凄い罪深い事をしている。
犯罪を犯した訳ではないのですが後悔の念があり、一生償っていかないといけないと、心から思いました。
お腹の子供が悪いことをした訳ではないのに、諦めなけければいけない。
主人も随分悲しみ悩み辛かった事と思います。
その時期、一気に老け込んだ様な気がしました。
「ごめんね」
「ごめん」
夫婦の会話はしばらくそんな感じでした。
しかし、家族の為そう決めたのなら、そう進むしかないのです。

未来を按じて

手術までの間店側にバレない様、必死に働きました。
指名も取り、お酒も飲み、稼ぐことに徹して少しの時間でも、手術を忘れれる様に務めました。
それでも一瞬で手術が控えてる事を思い出します。
セクキャバで働き始めて初めてと言って良いくらい、その時は苦しかったです。
「私に触るな」
何回心の中で叫んだことでしょう。
そして手術前日、セクキャバの出勤前に産婦人科を受診しました。
説明の通り、子宮の入り口に綿花の固い様な詰め物をされました。
少し痛みはありましたが所要時間は1分程であっけない処置でした。
もうこんな思いは二度としたくない、今もその気持ちは変わってません。
そして前日に費用を入金。
その費用を支払った時に、
「これでお別れなんだな。」
「もうお別れまで1日無いんだな。」
自分の中のカウントダウンが始まりました。
その時に考えたのが私の職種がセクキャバではなく、一般の仕事であったらこんなに簡単に結論は出していなかったなと思いました。
しかし、セクキャバで稼ぎだす金額を他の一般の仕事で貰えるなんて、それこそ医者か弁護士位なもので私にとっては違う次元の話になります。
普通の主婦がポンと稼げるのはこの業界しかなく、高給と引き換えにこんなリスクもついてくるのだなと・・。
2人を出産している経験があると言う事は、妊娠しやすい体質ということ。
産道がしっかり出来ているので、神経質なくらい気を付けておかなければならなかったと痛感しました。
二人の子供には何も言っていないので知らないとは思いますが、母親である私の様子の変化から、私や主人にぴったりくっついて離れようとはしませんでした。
お腹の子供を諦めたということは家族の基盤をしっかりさせること、今いる二人の子供を大きく育て社会に返せる大人にすること、セクキャバであっても仕事は仕事、しっかり働かないといけないと決意し、頑張らなくてはと思いました。
そして翌日、朝9時に手術を受けに産婦人科に向かいました。

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