880万円...。
この数字からこの物語は始まります。
第1話はこちらからご覧ください。
母からの呪い
風俗で仕事をしている事を母に言ったのが間違えでした。
何を言ってもどんな理由を言っても、母に本当の私の気持ちを伝える事は難しいと感じました。
何度も繰り返される私の対しての言葉は私の頭に、呪文の様に繰り返されました。
「どうしようもない母親やな。金人間。」
私がどんな思いでいるのか、そんな事は母にとっては関係の無い事です。
今どうであるのか、が母にとっては大切な事で、そうなった過程は気にもしてくれません。
それが私にとっては辛い事でした。
せっかくの家族との水族館もどんよりした嫌な雰囲気になってしまい、子供達や主人に申し訳ない気持ちにもなります。
救いは主人が私の表情が曇った理由が母親との電話である事だと知ってくれているのが、本当に救われる気持ちでした。
主人も私の母に対して、私を風俗で働かせているという後ろめたさや、申し訳なさがある為、母に対して強く意見を言えないという感じでもありました。
何もかもが、ズレている感じ。
私が受けた母からの電話で、私達家族全員が疲れていました。
子供達に対して切り替えてフォローもできなかったのは、私自身本当に反省すべきところ。
この1本の電話で見える景色の色が暗く変わり、私は楽しんではいけない人間なんじゃないかと、家族と団欒できるような身分や立場のにんげんじゃないかと思う位でした。
恐ろしい母親の呪いです。
「一生懸命頑張ってくれてるの、俺は本間に感謝してる。この仕事をママが引退したら、一生かけて俺が返していかないとアカンな。」
歩きながら主人がそう言ってくれました。
例えこの言葉が嘘であっても、その時に私の心を救ってくれたのは、私を産んだ母親ではなく主人でした。
近くで私の姿を見ていると主人にも感じるものがあったのだと思います。
歓迎出来ない命
母からの横やりで楽しさは半減したものの、家族との団欒や子供たちの楽しそうな顔で、私は普段よりやる気で次の日も出勤。
子供達とゆっくりできた次の日はどんな嫌なお客様でもしっかり営業し、しっかり稼ぐ自身がありました。
それは次に続く何かを子供たちにしてあげたいという思いからだったのかもしれません。
友達と約束していた大事な話を聞くと言う事がその日の私には、接客より大きな仕事と感じていました。
彼女も遠くの席で接客中。
やはり、具合がよくないのか青白い顔色でした。
それでも彼女のピッチも早く、次から次へとお酒を流し込んでいました。
また倒れないかなと、そんな心配をしながら、私も目の前のお客様を捌きます。
その日は営業終了後、友達と少し飲みにいくと主人に伝えていたので、私もそれなりに彼女の話が重たい事は本能で覚悟できていたのです。
近くのバーに行き、カウンターではないボックス席に座りました。
彼女の最初の言葉が、
「私、妊娠してるかも。」
そう、彼女は言いました。
私も、もしかしたら?というそんな予感はしていたのですが、余りにもあっさり告白されました。
今までの体調不良の辻褄が合いました。
「やっぱり~。」
「どうしようか。困ってる。」
「え?だって、旦那さんいるやんか。問題ないやろ?おめでとうじゃないの?」
「おめでとうなわけないやんか。全然嬉しくないわ。むしろ困ってる。」
「旦那さん知ってるの?」
「知ってる訳ないし。言いたくないもん。」
こんなやり取りが続きました。
彼女は結婚しても実家の為にセクキャバも辞めておらず、旦那様に反対されながらも、ほぼ出勤の毎日。
実家への後ろめたさから、自分だけが幸せになる選択を出来ないという、彼女の気持ちでした。
私としては彼女はきっぱりセクキャバを辞め、実家にお金を払うのも辞め、妊娠したのなら旦那さんと幸せに赤ちゃんを迎えても問題ないんじゃないか。
そう、彼女には言いましたが、何1つ、彼女は頷く事はありませんでした。
「今までお母さんとお父さんの為にセクキャバで頑張って仕事して、やっと親孝行できる生活ができるってお金も入れれるようになって、結婚相手もお母さんや、お父さんを私と同じだけ思ってくれる位の人を見つけたのに。子供を産んでしまったら、全部台無しになってしまうやんか。」
彼女の言いたいことは分かりますが、私には気持ちの理解は出来ませんでした。
「けど赤ちゃんは、旦那さんの子供でもあるやんか。1人で決めたらアカンやん。」
私が彼女に言えるのはこれが、精一杯。
私もセクキャバで働きだし、とても悲しい思いをしながら、3人目の子供を諦めた事を思い出して、とても他人事には思えず当時を思い出してしまい、凄く悲しくなってしまいました。
しかしそれは今そうなっている彼女の悲しみに比べたら、小さい物である事も分かっていたので、その日は彼女の話をゆっくり聞いてあげる事しか私にはできません。
子供を諦めるしかないという、とても重大な事を彼女は1人で抱え込み、旦那様もいて両親も居るのに、1人で決断しようとしていました。
それなりの言えない理由があったから、私に打ち明けたのだと思います。
結婚していて旦那様の子供が出来たのに、それを黙って諦めないといけない理由が、セクキャバで働くためだなんて、普通の感覚ではありえる事ではありません。
自分の為にならないお金を稼ぐ理由も本当は彼女にはありませんし、この彼女の気持ちはどうやったらほぐれるのかな?
私はそんな事を考えながら、彼女のお酒に付き合いました。
私からしたら間違っていると思う事も、それは彼女が色々考えて経験した事で固まってきた考えで、それを頭ごなしに彼女を否定することは私にはできません。
本来なら彼女の旦那様がそれもこれも含めて彼女をサポートしないといけないと思うのですが、彼女自身が旦那様にも心を開いていない状態での結婚だったからそうなってしまったのでしょう。
「私も夜に働き出して諦めた事あるねん。出勤めちゃしんどくて、ほんまに嫌になったで。手術の日も出勤しててん。」
「そーなん?」
「精神的に辛いしお腹も痛い感じやし、お客さんは知ってる訳ないし,イライラしてんなー。」
「ごめんな。心配かけて。ちょっとほんまどないするか、もうちょっと考えるわ。もうちょっと時間あるし。」
「せやな。病院行ってからの話やんな。また、なんか進展あれば教えて。出来る事はするし。」
「ありがとう。いっつもごめんな。」
私はまた考えてしまいました。
このセクキャバの仕事位のお給料を貰える仕事をしてる私であれば…例えば、医者であったり、弁護士ならば、こんな事では悩んだりしないのにな。
当たり前ですが本気でそう思いました。
体を張り、裸になるので妊娠したら見た目ですぐに妊娠したと分かるはずです。
医者や弁護士ならギリギリまで仕事をし、収入を確保しながら子供を出産出来るのにと、悲しくなってきました。
全て自分で選んだ道ですが、悲しくなります。
妊娠しても、歳をとっても、太りすぎたりしても風俗業界は体を売りものにしている以上、それが駄目になればもう、仕事はできないのです。
彼女も同じです。
妊娠し、胸が張り、お腹が大きくなってもセクキャバで働けるなら、ここまで悩んだりはしなかったはずです。
辛い事ですが体を売り物にするのはいつ、どなるかわからないという事と背中合わせ。
両親と旦那様とセクキャバという仕事の板挟みの彼女がどう決断するかは、もう彼女がどう考えるかで、お腹にいるかもしれない命も彼女の気持ち次第という事です。
オススメコラムはこちら