880万円…。
この数字から私の風俗の物語は始まります。
第1話はこちらからご覧ください。
そしてまた1人…消えて行く女の子
もしも、数ある風俗業界の中で、その店を選ばなければ、また違った結果だったかもしれない。
人生に「if」という言葉は無いとは言いますが、考えてしまいます。
あまりに理不尽で残酷に潰されていく女の子たちを見ていたらそう思わずには居られませんでした。
『女の子は商品なので、うちは大切にしています。』どこの店も本来そうでないといけません。
ロシアのハーフの女の子、彼女は辞めれない、逃げれない雰囲気の中、口数も減り喋りかけても来なくなりました。
恐らく、寮と店の往復だけの毎日、顔つきも、変わってきました。
相変わらず薬の服用は驚く量で、灰皿には薬の抜け殻のゴミがいつも数個はありました。
お客様にも付けてもらえない、その状態で、1か月位経過したころに、
『ごめんね。私飛ぼうと思ってんねん。』
久しぶりに喋りかけてきました。
その声は、ますます小さく、ごめんねと私に言ったのは、搾取する人間が一人減ると、誰かにしわ寄せがくるという、ルールのような、法則を気にしてだと思いました。
『警察にな、相談したいけど、実家にバレるやん。それも困るし、お給料減らされてから、私なデリでバイトこっそりしててん。お金ちょっと出来たから、逃げるなら今しかないかもやし。デリの店長に相談しててん。じゃ、寮を用意してくれるらしいしな、かくまってくれるって。このままやったら、何のために働いてるのかわからんし。今夜、逃げるわ』
『そうなんや。今日が最後なんやね。』
その会話をしたのを最後に、彼女と会うのはそれきりと思ってました。
そして、違う場所で元気にやりなおしてほしいと、心から思ってました。
飛びたくても飛べない恐ろしい現実
しかし、次の日、私が出勤したら、彼女は泣き腫らした目で店にいました。
失敗したんだなと思っていたのですが、彼女のスマホを恐らく店側が不正アクセスし、メールのやり取りを監視していたとの話をそのあと彼女から聞きました。
『多分、トイレか、接客中に操作されたと思う。』間違いなく違法行為なのですが、被害届を出せないから、そうなっている訳です。
そして分かることは、店の男性スタッフ数人での仕業でした。
逃げようとしている事も、彼女が計画し始めた頃には既に、店側は計画を知っていたけど、ますます金銭を要求する理由が出来るために、寸前まで泳がされていたという事でした。
案の定、店の寮の中にある家電を含む家財道具、ブランドもののバックを取り上げられたと、その彼女は話していました。
そしてデリヘルでバイトして貯めたお金も迷惑料として取られたと、本当に何にも無くなってしまいました。
出勤時のカバンも、どこかのショップの紙袋です。
こんなに綺麗な可愛らしい子が、標的になってしまうと、ここまでされる怖い世界。
彼女は冷蔵庫もない寮に帰っているのかと、とても悲しい気持ちになりました。
彼女は入店時とは、もはや別人の顔になり細い体がますます病的に細くなっていました。
それからは、彼女はセクキャバの仕事をしながら、閉店後にはデリにバイトという、そのスタイルのまま、諦めた様な表情で廃人のようになっていきました。
そして間もなく、彼女は店から消えていました。
ますます有利になる店舗の搾取
その頃、『キャスト同士での会話を禁止します』と、そのころ、ボーイに通達されました。
恐らく、キャストの搾取の金額やら、店側の手口をキャスト同士で話をさせない為だったとおもいます。
そんなことの通達は来ても、お喋り好きな女の子同士なので、色んな話が、当たり前の様に耳に入ってきました。
勿論、消えた彼女の話も回ってきましたが、油断してはいけないので自分から喋るのは出来るだけ、避けるようにはしていました。
噂では、もう彼女からは金銭を取れないのと、このままだと警察沙汰スレスレになるから、早めに辞めさせたとの事でした。
抜群な絶妙なタイミングで辞めさせてました。
わたしは、その彼女のハッピーエンドを願っていましたが、わたしも自分と家族を守ることが精一杯で、生半可な気持ちで善意を振りかざしては、自分に火の粉が降りかかってくると、恐れから彼女には何もしてあげることは出来ませんでした。
どこかでいま平和に幸せに暮らしていてほしいと、今でも彼女を思い出します。
まるで恐怖政治のどこかの国みたいで、自分を出せない、意見は言わない、いつも笑顔で頷くという原則を必死に守ってきたと思います。
恐らく、40人程の在籍のキャストが居て、そのうち、10人位が男性スタッフと体の関係を持ったり、彼女だったり、スタッフを好きになってしまっての貢いだりのキャスト。
5人位が殆どお給料を貰えない、あの手この手を使われ搾取をされるターゲットになってるキャスト。
残りが少しの搾取で済むキャストでした。
少しの搾取で済むキャストは、お給料からの数万円の搾取に気が付いていない人もいたと思います。
少しの搾取で済むキャストは、そこそこお客様がついていて月間の売上がまだ取れるキャストです。
辞められたりするのは店からしても痛い存在になっていたのだと思います。
わたしも恐らくそこの位置に辛うじていたと思います。
尚更、成績の死守はしなければなりませんでした。
それはもちろんターゲットにならない為にです。
そんな内情を抱えた店でしたが、店は繁盛していましたし、週末なんて外にまでお客様の列ができるほどでした。
そして男性スタッフ数人は日に日に持ち物が派手にもなっていき、売れっ子のキャストより格段上の派手な生活ぶりを見せていました。
男性スタッフが新しい高級時計になったり、車を乗り換えたりの話をしていると、また誰かが酷い思いでお金を取られていたんだなと思っていました。
どうしてその状態のサイクルが覆されないのかというと、当たり前ですが、誰も外の世界に助けを求めないからです。
助けを求めることが物凄く怖い事の様に思っていました。
労働基準監督署なんて、風俗業界にとっては何の役にもたちません。
警察にも相談には行きたくありませんでしょうし、両親にも風俗業界の話なので絶対に相談できません。
彼女たちは、出来るだけ穏便に騒ぎ立てずに在籍し続ける事を選んでいきました。
今、世間で騒がれているような一般の企業の雇用問題の様に、ブラックだとか、パワハラだとか騒ぎ立てる事は皆無です。
その頃自宅に帰ると、心の底からホッとしました。
家族の為に犠牲になってるなんて、本当に思いませんでした。
家族でテレビを一緒に見る事、主人や、子供に為の洗濯物がこんなに楽しくて、幸せだなんてと、家に居てる一分一秒が大切で仕方がありませんでした。
この子たちの未来の基礎作りの為に頑張ろうと私はただただそれだけの想いでした。
支払いにも困ることは無くなっていたので、主人とはお金の話も前ほどしなくなり、お互い、債務整理の手数料を払いきるまでは頑張ると思い合えていたと思います。
ただ、その時の恐怖は、セクキャバでの仕事のお給料が、少しの搾取はされても、私たちの家族が債務整理の手数料を払えて、生活出来るだけの金額を貰えるかどうかで、そこそこ成績を残さないといけないという、プレッシャーで、かなりのストレスがありました。
家族の団欒が幸せだった分、余計に踏ん張らないといけない使命感に押しつぶされそうでした。
第9話につづく…。