風俗で働く女の子の物語。
あなたは彼女たちを批判する?
それとも共感?
今回は2人目の女の子。
1人目はこちらからご覧ください。
ななせの場合
「なな」
出勤しようと100均で買った鏡の前で付けまつげと格闘をしていたら、背中に声をかけられた。
「ん?」
声の主は翔太だ。
翔太は夜勤なので白昼のこの時間は家にいて寝ているが、今日に限って起きている。
なあに?あたしは首だけ捻って翔太に一瞥をくれる。
「……、てゆうか、ファミレスのバイトなのにつけまとかさ、マジ気合い入れすぎじゃね?」
いつの間にかあたしの近距離にいて、つけまをまじまじと凝視しつつ横目で見ている。
俺はさ、何もかも知っているんだそ。なな。
翔太はあたしが風俗嬢なことは知らない。なのに、なぜだか目が泳いでしまう。
翔太は、さらにクスクスと笑う。
「ん?いいでしょ。だってさ、彼女がかわいいと、翔太だって気分がいいでしょ」
言い訳のつもりだとかではなく、本音を口にした。
翔太は、まあな、あたしの首筋に軽く「チュ」とし、スクッと立ち上がって台所の方へ歩んでいった。
変な汗を背中にかく。
風俗嬢だって立派な仕事なのに。
どうして、愛おしい人には本当のことが言えないのだろう。
いくら同棲をしているからといって、全部が全部お互いを知らなくてもいいこともある。
知らないほうがいいこともあって、そうやって夫婦やカップルは形成されていると思っている。
台所でコーラーをコップになみなみと注いで飲んでいる翔太に声をかける。
「翔太〜、寝なくてもいいの?」
付けまつげがキリッと決まった。
付けまつげっていう代物は一度つけると外せなくなる。中毒性あり。
翔太があたしの顔を見ながら、
「ななが、出ていったら、寝るわ。最近すれ違いでさ、ななの顔をよく見てなかったからさ。今日は起きてます。」
ぷっ、くせ〜台詞ゆってんなぁ、俺。翔太は自虐的に笑う。
まあ、そうね。クスクス。あたしも一緒に笑った。
「翔太、大好きだよ」
「はぁ?」
出勤の時間が迫っている。
翔太はいつもいつでもあたしの味方だ。
翔太がいるから風俗バイトに邁進できる。
風俗バイトをするようになってから、なんでかよくわからないけれど、翔太のことがますます好きになった。
風俗嬢は男性ともっとも交わる仕事。
恋愛に対して億劫になると、同じお店のゆうちゃんがゆっていた。
ゆうちゃんもあたしと同い年の24歳。
「ななちゃんは、きっと、強いんだね。恋愛と風俗を分けているからさ。」
ゆうちゃんは、確信をした口調であたしを褒めた。
やだぁ、そうかなぁ。謙遜をしたけれど、本当にそうかもしれない。
風俗嬢だって恋もする。普通の女の子だ。
「俺もだし」
翔太は耳朶を熱くしてあたしを背後から抱きしめる。
「今度さ、どっかうまいもん食べに行こ」
「あ、うん、うん!」
狭いワンルーム。
あたしの嬉々たる声はおもしろいほど響いた。
翔太!あたしはさらに大きな声出し、
「だーいすき!」
天井に向かって叫んでいた。
今日もがんばろっと。
あたしは、支度を終え、ヒールを履いた。
赤いヒール。踵をカツカツと鳴らしながら。
to be continued…
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