【55話】夫の決意




880万円…。

この数字からこの物語は始まります。

第1話はこちらからご覧ください。

一切言い訳をしなかった夫

重たい、暗い話し合いの時間と言うのは、時計の秒針の音まで聞こえてくる、妙な緊張感があります。

出来るだけそんな話し合いを結婚生活の中で私は避けたいと思ってきて、割と通り過ごし、流して来たのですが、

結果としては、私のその行動が夫を甘やかし、夫を傷つけない為に、一心不乱に風俗で働いていたのです。

生活が切羽詰まり、どうしようもない時に風俗の仕事というのはとてもありがたく、本当に助かります。

しかし、高額な賃金を受け取らなくてもやっていけるレベルであれは、風俗業界の仕事を選ぶにはリスクが高すぎました。

理由としては、やはり、来月貰えるお給料がどうなるか分からないという不明確な中での生活をしなくてはならないという事です。

あともう一つは、やはり社会的なものです。
これは、子供がいてるの場合になりますが。

直視したくない部分ではあったでしょうが、主人はそこを真剣に考えなくてはいけない時を、ずっと見て見ぬふりをして過ごしてきたのです。
一時的な笑顔が家族から消えてしまっても、先の長い人生であったり、まだまだこれからも続いていく子育てを考えると、この話し合いでぶつかる事くらい大した事ではないと私は強い気持ちでいました。

誰が見ても、聞いても思うでしょう。
10年後の私が、その時の私と同じ給料をセクキャバで絶対に貰えるかなんて、誰も約束はしてくれないのです。

風俗業界での仕事は、稼げるときに稼ぐというスタンスでないと、本当に先は予想なんて出来ません。
それを主人も分かっていたはずです。

主人は子供ができてからは、特に真面目で優しい父親でありましたが、社会の中で活躍する時、傷つき過ぎた事もあったのでしょうが、
気持ちは理解できてもそこを乗り越えて貰わなければ、この先2人の子供を養う父親には絶対になれないと思いました。

『アンタが、気甲斐性出して、やる気にならなければ、家族でいるのは、もう無理。

店にももう辞めるって言ってるねん。疲れたから。

辞めた後、食べていくのも大変な貧乏になるのも、私嫌やし。

やからちょっと、考えてほしいねん。どうするか。』

セクキャバのスタッフには、辞めるなどとは、一言もまだ言ってなかったですが、主人に危機感を持ってもらう為に、そう言いました。

『俺は家族で一緒に居たい気持ちは、何も変わらない。
このままで良いとも思ってない。

全然ダメな親父やってことも、自覚してるねん。
俺は本間にアカン人間や。』

主人は良い訳一つもせずに、私の話を聞いていました。

『それを分かってるなら、動いてほしい。

アンタがどうするかによって、私は子供連れて家を出て行くか、どうするかを今後を考えるわ。』

その日は、私は休みだったので、ゆっくりゆっくりと話し合いが出来ました。

リビングに残した子供の所に戻り、深刻な話をしていた事を隠す様に、私は明るく子供たちに

『今晩はご飯食べにいこうか?』

そういって、主人をチラッと見ました。
案の定顔色は悪かったのですが、子供達には一生懸命明るい様子で接していました。

長男はまだ小さいとはいえ、気づいていたようです。
お父さんとお母さんが寝室で話し合いをしているという事は、ただ事ではないということを。

恐らく離れて暮らさなくても良い様に、解決の話し合いをしていると思っていたのでしょう。

小さい子供にそんな心配をさせたり、不安な気持ちにさせた事は、私にも責任があります。
そこは本当に申し訳ない気持ちで、心が押し潰されそうでした。
しかし、そこも長い目で見ると、仕方の無い事でした。

その時本当に思いました。
働かない人間を働かせるより、自分が働いた方が楽な事。
例えそれが、風俗の仕事であっても、自分が働いた方が数百倍、簡単であり、楽なんだと…。

主人も可哀そうな部分はあります。
騙される様に私の父の会社に入り、提示額とは全く違う約束破りな数十万も少ない給料で働かされ、挙句の果てには時給扱いの様になっていた事。

お尻に火がついて、私が風俗業界で働かざるを得なかった事、その渦に巻き込まれ、自分の仕事を真剣に考える気力も無く、私が不在の間気を抜くことなく子供の面倒を見て時間を費やしてしたことも、主人の考えるタイミングを奪っていたのかもしれません。

時々見る求人は、私が貰ってくる給料より遥かに低く、やる気も失われていたのも分かりました。

風俗業界の仕事がいくら一時的なものであると分かっていても、やはり貰ってくる現金が大きいので、私がセクキャバで働いた方がいいのかもしれないと言う、錯覚のような感じでいたのでしょう。

『就職探すわ。出来るだけ急ぐわ。
もし、面接とか夕方とかに入ったら、店を休んでくれるか?』

『いいよ。全然。それくらい協力するよ。』

その日は家族で焼き肉を食べに行ったのですが、いつもの主人の食欲では考えられないくらい小食でした。

長男に『お父さん、あんまり食べへんねんな~。』そう言われる始末です。

私がセクキャバで働く前は、外食といっても回転ずしが精一杯で、それも本当にたまにしかなく、私がセクキャバで働き出してからは、外食も月に数回出来るようになり、しかも値段で決めずに、食べたいものを食べに行ける様になっていました。

焼き肉も食べ放題ではなく、そこそこ美味しいと評判の焼き肉屋さんです。「主人が就職したら、焼き肉なんて行けるのかな?」ふとそう思ったのですが、もし行けなくても家族で美味しい焼き肉を食べれる様に頑張っている主人の姿を見れる方がいいな。そう思っていました。

子供2人含めた4人家族で、焼き肉の会計がだいたい2万弱。
このお金をこれから稼ぐのは、自分なのだと主人もしっかり自覚しながら、食べていたはずでした。

生活水準について

借金だらけの生活をしていた頃は、スーパーで子供の好きな果物を買う事すら出来ませんでした。

車のガソリンもいつも給油ランプがつきギリギリ。
たまに買うアイスクリームはいつもお徳用パックで298円。
成長期の子供のお洋服は、殆どが安い量販店で数百円のもの。
長男に関しては七五三も出来ずにお祝いさえしてやれなかったのです。

その頃を思い出すと胸が苦しくてどうしようもない位なのですが、セクキャバで働き始めて、生活を普通レベルまで戻すことができ、どんどん出来る事が増えていきました。

しかし、お金がなかった時のストレスを発散するように、稼いだお金は消えていきました。
稼いだ分は、普通のものよりちょっと良いものになっていきました。

スーパーでは子供にはふんだんにお菓子を買い与え、発売されて直ぐのゲームを買い与え、アイスクリームは1個300円のものが冷凍庫に入っているようになり、子供服も可愛らしいブランドのものになっていました。

お金が無さ過ぎて辛かった事を発散するように、普通の生活よりいい生活をしていたのだと思います。

しかし、その資金源は私の先の見えない風俗であるセクキャバであったのです。いつまでも続くはずがありません。

生活に必要なもののレベルを少し落とせば、主人がこの先働くと決めるだろう仕事先のお給料でも、やっていけるんではないかと、私にも勿論勇気は必要でしたが、そこは主人を稼げる人にする為に、必要な我慢なんだと思いました。

願いをかけた、主人のスーツ。

主人との話し合いの翌日、主人が言ってきました。

『今週、木曜に面接があるねん。4時に約束で、夕方には帰ってこれないから、店休めるかな?』

主人が面接までこぎつけていました。
物凄い集中力だなと驚いたのですが、きっと色んな感情がそうさせたのだろうと、主人の気持ちに感謝しました。

その時点で、下の子の入園式まで二週間無い状態でした。主人も色んなタイムリミットは分かっていたのでしょう。

セクキャバで働き出してすぐに、私は主人にスーツを購入しプレゼントしたのを思い出しました。

いつか、これを着て、主人が社会の輪の中で活躍できますようにと贈ったものでした。そのスーツを私はクローゼットにあるのを確認し、クローゼットの中のスーツに声をかけました。

『宜しく。』

 

 

 

Rie

若くして二児の母になった私は風俗の世界に飛び込む決断をしました。夜の世界の「光」と「影」を自身で経験しました。家族を守るため、風俗とともにがむしゃらに駆け抜けた6年間の濃密なコラムが皆様の元気に変わればと思い執筆活動を続けて行きますのでよろしくお願いします♪ Rie♡”