エピソード

【35話】スタッフの弱音と社会と夜の境界線

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880万円...。
この数字からこの物語は始まります。
第1話はこちらからご覧ください。

社会性とは

私が今まで見て来たキャストで、自己管理が出来なくて苦しそうなキャストには特徴がありました。
そして責任者が変わってから、居心地が悪くなり辞めて行った人も、影をひそめる様になった人にも共通するものがあったのです。
それは社会性という部分が著しく欠落しているという事でした。
それもそのはず。
初めて働いたのが風俗業界だったり、初めてのアルバイトが風俗業界だったりする人達ばかりなので普通のお仕事をしたことのない人ばかりだったのです。
若くても物凄くしっかりと規律を守り、業務をこなす人もいましたが、風俗業界歴20年の人でも、通常の社会経験をせずに風俗業界に飛び込んでズルズル続け、仕事場での自己管理が出来なく、社会人同士の付き合いが出来ない人もいます。
そして雇われているという立場、先輩、後輩という立場も使いこなせないままなのです。
セクキャバの責任者はサラリーマン歴が長くあった事もあり、社会性の無いキャストに困らせられっぱなしで、毎日とても大変そうでした。
今までは厳しいルールがあり、罰金や迷惑料という目に見える罰則があったから、遅刻も当日欠勤も防げていたのです。
無くなってしまったらルールを守る必要が無くなってしまったのです。
厳しい罰則がなくても、雇われているルールを守る。
それが一般常識では当たり前の事なのですが
「遅刻や欠勤は、余程の理由が無い限り、他のスタッフに迷惑がかかるから駄目です。」
これを大人が大人に言わないといけない、指導しないといけない辛さが責任者から滲み出ていました。
「最近店暇やんな。女の子達やる気なさそう。」
私と話す事が多くなった年上の彼女も気が付いていた様でした。
女の子だけの問題では無いのですが、それも原因の1つではあったのです。
「前の罰金があった時の方が、皆ちゃんとしてるな。遅刻もしなかったし、休まなかったしな。」
変わらずに成績を確保している女の達はわかっていたのです。

スタッフとの初めての食事

ある日、責任者のスタッフから声をかけられました。
私と仲良くしている同僚の年上の彼女と3人で一度食事に行こうと誘われ、閉店後に食事に行きました。
主人や子供達が家にいるので早く帰宅したい気持ちが強くあったのですが、私以外にも仲良くしている同僚も一緒ということもあって、乗り気ではないまま行く事に。
お店で働く同僚の女の子とは食事に行った事はありましたが、男性スタッフと食事をするのは初めてでした。
独裁政治の様な店内だった事もありますし、余計な事を私自身喋りすぎない様にと思っていたので、男性スタッフから食事や飲みに行こうと言われても、頑なに断り続けるのが1番の自己防衛だったのです。
店が閉店してから深夜まで空いてる小さなダイニングバーに行きました。

弱音

とくに緊張もしませんでしたが、何となく何から喋ろうか考えていたのを覚えています。
先に喋りだしたのは男性スタッフの方からでした。
「店終わってから時間取らしてごめんやで。」
「いえ。大丈夫ですよ。」
「いつも自分ら大変そうやから、飯でも奢らして貰おうかなて思って。」
「(笑)」
そんな他愛もない会話。
それから私達が聞かれたのは、今までの罰則があった時の店内の状態でした。
「大体は、俺も知ってるねんけどな。それを何とかしろって事で、俺が来たんやけど、中々難しくてな。」
そんな時に話をしてきたのは、数人いる男性スタッフ達の事でした。
「結構エグイ事をして女の子から金巻き上げるのは、ここら辺では有名やったみたいやな。
それを何とかって思っていたけど、店の一部が中々付いて来ないから、俺もきついわ。本間に。」
凄く疲れている様に見えました。
何とかしようとすればするほど、女の子が付いて来なくなり売り上げも下がっていっているとも話をしていました。
何となく彼がその時に感じた事はこの業界に馴染めていない、働くセクキャバに馴染めていない違和感でした。
「普通のサラリーマンをしている方が数倍楽やねん。
めちゃくちゃ使いにくい人間が多すぎるから。
会社で使われた事ない人間って、ちょっと使うのは難しいやんか。
店を立て直して女の子を助ける気持ちで来たけど、きつい縛りの中じゃないと働けない人間が多すぎる。
けどな、ここで働く女の子は日が当たらない場所で生きていた人間が多いから、一般の世間で人と付き合う事も少ないやろうしな。
誰かに何かを教わることも少なかったはずやしな。ある意味世間知らずやねんな。」
弱音の様に聞こえますが、本音だったと思います。

境界線の先

その時のダイニングバーで深夜にも関わらず、沢山のお客さんが入っていました。
その場所にはスポットライトが当たるかのように、綺麗な着物を着たクラブのママらしき人が楽しそうにお酒を飲んでいます。
そして違う席ではクラブの綺麗なホステスさんらしき人が、お客様らしい人とお酒を飲んでいます。
また、違う席では若くて可愛いキャバ嬢が数人で騒いでいます。
同じ夜の世界でも私達とは違い、間違いなく境界線があります。
この劣等感のような気持ちは、経験が長ければ長いほど根っこが張っていき、そして自分から人との関りを切っていくのだと思いました。
セクキャバでもそれは同じでした。
「この類の仕事は通過点じゃないとアカンて、思うねん。
通過点って分かってる子は辞めていくし、自分で目標決めてるしな。
それが終着点って思ってる子は中々辞めないし、他の女の子や店にも絶対に悪影響やねんな。
仕方ないし、それがこの業界の特徴やしな。社会と自分の折り合いがつけないねんやろうな。』
そんな話もされていました。

ふと思った・・・。

そんな話をしばらくして、帰宅しました。
主人と子供の話をしながら、ふっと思い返しました。
主人がもし私以上の収入を得れるような仕事を見つけて来たとして、私は何のためらいもなく生活を元に戻せるのかなと…。
主人だけを見ると凄く平和そうに見えます。
子供の育児ノートを細かく書いていたり、子供に作ってあげたんだろうなとタコ焼き器が台所に出ていたり、読んであげたのか絵本が無造作に置いてあったり、それを見てなんだかとても、虚しい気持ちになりました。
私もこのセクキャバという仕事で、劣等感の塊になっていたのです。
主人に抱くイライラは、私の劣等感。
分かってはいましたが、その気持ちは収める場所はありません。
私が家族の生活の為に風俗業界で働いている事を、ずっと夫婦2人だけの秘密で駆け抜けてきて、後ろめたさもあります。
何かを気が付かれてはいけないと思ったのもあって、両親への連絡もほぼせず、主人の両親にも、私と主人のプライドを守る為に絶対に連絡はしたくありませんでした。
私には姉が2人いますが、2人の姉にも余程の用事が無い以外は連絡を全くしないという状態だったのです。
主人や子供を守りたくて色んな人間関係を切ってきた気持ちの私は、生活を私に守られながら、子供と楽しそうに過ごしている様に見えた主人を見て、本当に悲しくなりました。
気楽にしてそうな主人が、羨ましかったのかもしれません。
当時は、そんな複雑な気持ちだったのです。
その時期に、母親に言ってみようかな。
ふっと思いました。
家の状態や私が大黒柱である事を伝えようかなと、母親なんだし、私の気持ちを分かってくれるかな…何故かそう思いました。

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若くして二児の母になった私は風俗の世界に飛び込む決断をしました。夜の世界の「光」と「影」を自身で経験しました。家族を守るため、風俗とともにがむしゃらに駆け抜けた6年間の濃密なコラムが皆様の元気に変わればと思い執筆活動を続けて行きますのでよろしくお願いします♪ Rie♡"

 
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